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「てる彦ォォォ!!」
いじめられていた子供は西郷さんの息子、てる彦くんだった。私達がてる彦くんを店まで連れて帰ると西郷さんは血相を変えててる彦くんへと近付いた。
「大丈夫だよ、父ちゃん。かすり傷…ぐほっ!」
「父ちゃんじゃねェェ!母ちゃんと呼べェェ!」
『無理だよ、無理があるよ』
「しっ心配しないでよ、母ちゃん。帰りに友達とチャンバラごっこしてるだけだから。じゃ、僕遊びに行ってくる」
「ちょっ待ちなさい!」
『…ん?』
てる彦くんは先程の事は言わずにそのまま走って店を出ていった。その時、足元に落ちていた紙を見つけ、それに目をやると同じように紙を覗いていた桂さんと顔を見合わせた。
「童」
「!」
「忘れ物だ」
『大事な物でしょ?』
てる彦くんは屋上にいた。私と桂さんは先程の紙をてる彦くんへ渡した。その紙には授業参観と書かれていた。
『西郷さんには見せてないよ』
「それとも見せた方がよかったか?」
「…いや…アリガトウ。なまえちゃん、お姉ちゃん」
「お姉ちゃんじゃない、桂だ」
『性別のとこ否定しましょうよ』
「いいのか?親父殿に来てもらわなくて」
桂さんの言葉にてる彦くんは空を眺めながら答えた。
「……来てほしいけど…」
「またバカにされるのが嫌か?」
同じように私達も空を眺める。
「僕は別にいいよ。もう慣れっこだから。でも、父ちゃんが笑われて傷つくところは見たくないんだ」
『…西郷さんの事、大好きなんだね』
「うん。面白くて優しくて、時々ちょっと恐いけど」
『ちょっとどころじゃないけどね』
「でも、たまに父ちゃんが普通の人だったらって思う事もある」