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「また良牙くんと喧嘩したの」

陽が傾き出した夕暮れ時に、居候している乱馬がボロボロの姿で帰ってくるや否や、千切れてしまったと髪紐をずい、と押し付けられた。

「あいつが吹っ掛けてきたんだよ」
「断ればいーのに」
「売られた喧嘩は買うもんだ」
「乱馬らしいね」

クスクスと笑いながら縁側で乱馬の髪を掬う。双子であるあかねとは対照的に手先が器用な方であると自負する私に乱馬は、よく三つ編みを結ってくれとお願いされる。その度に触れるその髪は格闘が好きでやんちゃな乱馬には似つかわしくなく繊細で柔らかくて心地が良い。

「でも、あんまり怪我ばっかしてるとあかねが悲しむよ」
「悲しむ訳ねーだろ」
「悲しんでると思うけどなあ」
「……」


乱馬が天道家にやってきて、あれよあれよとあかねと乱馬が許嫁になり、すっかり日常に溶け込んでしまった光景。乱暴的で喧嘩ばかりの乱馬が私の許嫁でなくて良かった、と初めの頃はよく思っていた。だが、話していく内に段々と乱馬の優しさや、まるであかねにそっくりな不器用さが愛らしく感じ、今では惜しい事をしたかも知れないと密かに後悔していた。

「…お前は」
「ん?」

そんな事を考えながら、慣れた手つきで三つ編みを結い続けていれば、ふいに乱馬が言葉を溢し思わず聞き返す。

「お前は、悲しまねえのか」
「…私だって悲しいよ?」
「…ふぅん」
「え、聞いてきた癖にその反応何なのよ」
「べつに」

髪を結う為に後ろに立っているから乱馬の顔は当然見えなくて、素っ気ない返答に思わずムッとした。(変な髪型にしてやろうかしら)それでも僅かに見えた乱馬の横顔から、少しだけ楽しそうな表情がちらりと見えると、何だかよくわからないけれども、私も口元が緩んだ。


(こうやってあと何度、乱馬の髪を結えるんだろう)



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