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「利吉くん、利吉くん。そろそろ起きなきゃ」

布団の中でもぞもぞと微かに動く頭をぽんぽん、と優しく叩いてみるが、返事は返ってこない。

「…利吉くーん、もうすぐ仕事の、っわあ」

起きないなんて珍しい、ともう一度声を掛けようとすれば、不意に布団の中で体が彼の腕の中へと引き寄せられた。

「もうっ、起きてるんじゃないの」
「…まだ寝てます」
「子供みたいな冗談言っちゃって」


彼はとても優秀だと顔の知れたフリーのプロ忍であり、仕事の依頼は尽きる事を知らず、あまつさえその整った見目と爽やかな笑顔による青年ぽさ、と思いきや大人顔負けの余裕ある立ち振る舞いに世の女性達からのお誘いも尽きる事を知らない。きっと世の人類全てが彼を求めている、そう思ってしまう程に人気者である。

そんな彼が今、駄々っ子の様に私に甘えている。

「ほら、早くしないと仕事遅れちゃうよ」
「…今日くらい休んだって構いませんよ」
「駄目に決まってるでしょ。優秀なプロ忍である山田利吉がそんな事言っちゃっていいの?」
「…なまえさんと離れたくないです」
「また仕事が終われば会えるんでしょう?」

仕事を終わらせ数ヶ月ぶりに訪ねてきた彼は、また新しい任務へと取り掛からねばならない。(人気者は大変ね)そしてきっと、また仕事を終えて会いに来るのは数ヶ月先になるのだろう。

「…なまえさんは、長い間私と会えなくても平気なんですか」

すると、私の言葉に拗ねた様に私を上目遣いで見て彼がそう問い掛けた。なんて愛らしい。
私より二つ年下だが、先も述べた様にいつも大人びた彼が見せる時折幼い姿が大好きだ。私にしか見せない表情。そんな彼に思わず笑みを溢すと、彼は少し怪訝そうな顔をした。

「何故笑うんです」
「いや、可愛いなって」
「かわっ…可愛いのはなまえさんですよ!」
「きゃー!苦しい苦しいっ。ほら、そろそろ支度しないと本当に遅れちゃうよ」
「…分かりました」

暫し楽しい時を過ごすも、このままだと遅れてしまうであろうともう一度支度を促すと、彼は漸く渋りながらも体を起こし布団から離れた。


「…ね、利吉くん」
「なんですか」
「私も利吉くんと会えないととっても寂しいけど、これから先ずーっと一緒にいるんだって考えると、不思議と寂しくなくなるの」
「!…そ、それってつまり」
「それにね」

私の言葉に声を漏らした彼に構わず、私は言葉を続けた。


「会えなかった分、次会えた時、とっても嬉しいじゃない?」


そう言うと、徐々に嬉しそうに笑みを浮かべる彼がまた可愛くて、つられて笑った。
(……なまえさんには一生敵いませんね)



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