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「おら、帰るぞ」

放課後、いつもの様に文次郎は私の教室へとやってくるとそう言った。
文次郎と付き合い始めて早一ヶ月。と言っても、付き合う前とさほど関係は変わっていない。進展なしと言ってしまえば気持ちは良くないが、別に私は文次郎とイチャイチャしたくて付き合った訳じゃないし、文次郎も同じ思いだろう。(お互いが自然でいられる関係だからこそ収まるところに収まったという感じ)


「う〜、毎日寒いね」
「冬なんだからしょうがないだろ」
「何で毎年冬なんて来るんだろ。冬なんて無くなればいいのに」
「バカタレ。こんなにもはっきりとした四季が訪れるのは日本特有なんだぞ。感謝しやがれ」
「何であんたが偉そうに言うの。そもそも冬無くなれって言ってるのに感謝なんてする訳ないでしょ…え!雪!ちょ、雪だよ文次郎!」

下校中いつもの様に下らない会話を繰り広げていると、ふいに寒さで赤くなった鼻先に、追い討ちをかけるような冷たさが襲った。雨かと思えば、それは形を持っていて。だが、その個体もすぐに消えてしまえば、私は雪だと認識した。ここ数年見かけなかった雪に、冬が嫌いだなんだと言いながらも思わず興奮して声を荒げた。

「あ?…本当だ」

そんな私にうるさいと言わんばかりの表情を浮かべつつ、空を見上げれば徐々に量を増して降ってくる雪に文次郎は小さく呟いた。

「どうりで今日はやけに冷え込むと思った」
「雪なんて何年ぶりだろ?ね!雪合戦しようよ!」
「バカタレ。積もるまで何時間待つつもりだ。それにもうすぐ期末テストなんだ、風邪でも引いたらどうする」
「えー!だって折角の雪なのに〜」
「お前は炬燵で蜜柑食ってだらだらしてる方がお似合いだ」
「ちょっと何よそれ!人をぐうたらみたいに」
「あーもううるせえうるせえ。ほら、さっさと帰るぞ」

駄々をこねる私を親が言い包める様に、文次郎は立ち止まっていた私の手を引き再び歩き始める。

「ちぇ、つまんないなー」
「つまらんくて構わん」

ケチもんじ、と心の中で付け加えたものの、手に募る熱に何だか心がぽかぽかし始めて、雪への興味は徐々に薄らいでいく。



ささやかなぬくもり



「ね!春休みはスキー行こうよ!」
「…お前の追試が無ければな」
「じゃあ決まりだね!」
「…毎度毎度追試のお前のどこからその自信が湧いてくるんだ」
「んー、愛?」
「勉強しろバカタレ」



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