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恐らく、いやそれはきっと確実だろうと私は感じていた。

今まで幾度となく感じてきた沢山の女子からの熱の籠った視線と、分かりやすいアプローチ。自惚れている訳では無いと思うのだが、事実、そう感じた矢先にはいつも想いを伝えられてきた。
残念ながら、私には今までその想いに応えてあげられる様な相手はいなかった為に、申し訳ない返事をしてきたのだが、今なら、きっと目の前にいるこの子が喜ぶ返事をしてあげられるだろう。


「あ、利吉さん!こんにちは!」
「やあ、こんにちは。なまえさん」
「今日も山田先生へご用事ですか?」
「ああ、まあいつもの事だよ」
「お忙しいのに大変ですね」
「そんな事はないよ」
「本当ですか?…あの、でしたら後でお昼ご一緒しませんか?ご迷惑でなければ、なんですけど…」
「勿論、構わないよ」
「本当ですか!?じゃあ早く仕事終わらせますね!」

父が働く忍術学園にいる事務職員であるなまえさんは、一つ下と歳が近く、話しやすい人だった。初めて会った時から無邪気ににこにこと笑顔で話す姿はとても愛らしく、こちらまで笑顔になってしまう程だ。それ故に学園の生徒にも大変人気である。言わずもがな私も勿論、彼女は好印象であり、それとは別の感情を抱くまでにも時間はかからなかった。そしてまた、彼女もきっと同じ想いであるだろうと感じていた。今まで私にアプローチしてきていた女子と同等の熱い視線や、何かにつけて私を誘う際の恥ずかしげに発する声音。もし、彼女が想いを伝えてきてくれたならば、二つ返事で返すだろう。

「はは、じゃあ私も早く父上の用事を済ませて戻ってくるよ」
「はいっ」


「あれー?利吉さんとなまえさん、もしかして逢引の約束っすかー?」


「!きり丸…」
「わ!きり丸くん…!びっくりした…って、あっ逢引って…!」

昼餉の約束を交わすと、突如現れたきり丸に私と彼女は揃って肩を上げ驚いた。私とした事が、彼女との約束に浮かれて気配を察知出来なかった…不覚。心中でそう悔やみながらも、きり丸が発した言葉に頬を染めた彼女に少し期待が募る。これをきっかけに、もしかしたら、と。

「だって、楽しそうにお昼一緒に食べる約束してたじゃないっすか。違うんすか?」
「そっそれはそうなんだけど…!そんな言い方、利吉さんが困るでしょ!ねえっ利吉さん?」


「…私はそう思われても構わないが、」
「…え?」

話を振られ、そう返せば、目を丸くきょとんとさせた彼女が私を見つめた。そうだ、なにも彼女から話を切り出されずとも、私から切り出せばいい。

これを機に、私の想いを彼女に――「やだ!利吉さんってば!そう言って何人の女性を口説いてきたんですかもー!!きり丸くんも!大人をからかうんじゃありません!」

「え、いや、あの」

すると、彼女から発せられた言葉は、想像していた様なものではなく、思わず私が動揺した言葉を漏らしてしまう。冗談に思われてしまったのだろうか。それはまずい。そう思い、真剣である事を伝えねばと、再び口を開こうとした。

「っあと!い、今の話はど、土井先生に言わない様に…!」
「え?」
「ちぇっなーんだ。修羅場見れるかなってちょっと期待したのに」
「もう!あ、ほら、もうすぐ授業始まっちゃうから早く教室に戻って戻って!」
「はーい。じゃ、利吉さん、また!」
「まったく…あ、ご、ごめんなさい利吉さん!お騒がせしちゃって!それじゃあ、また後ほどこちらでお待ちしていますね!」
「あ、ああ…」




え、?




勘違いもほどほどに



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