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「綾部って冷たいね」


そう言ってひたすら穴を掘り続ける綾部を激しい雨の中上から見下ろしていた。そんな私を綾部は見る事もなく踏鋤を動かし続けながら、口を開いた。

「泣いたって何も変わらないじゃないか」
「だからって同室が死んだ日に穴掘るとか頭おかしいんじゃないの」
「……」



滝夜叉丸が死んだ。
忍務の合間に通りがかった合戦場で戦っていた男の一人が見誤り私へと襲いかかってきた所を、滝夜叉丸が身を挺し庇ったのだ。あんなにも近距離で血飛沫が舞い上がり、同級生が、ーー恋仲であった人が、崩れ落ちるのを目の当たりにした私は頭が真っ白になった。

自分のせいで、滝夜叉丸が死んだ。


「…薄情者」
「何とでも言えばいいよ」
「…最低。人でなし」
「はいはい」
「っ…単細胞!馬鹿!阿呆!」
「おやまあ。単純な悪口ばっかりだね」
「……」

次々と出てくる悪態にも、綾部は穴を掘り続ける事を止めない。
わかっている。
綾部を責めたって、何も変わらない。ましてや、滝夜叉丸を死なせたのは自分自身なのだ。本当は全て、己に向けた悪態であった。


「どうしたの。もっと言いたい事ないの?」

私が黙り込んだからなのか、はたまた穴を掘り終えたからなのか漸く綾部が顔を上げた。すると、滲んだ視界では綾部が目を大きく見開き、こちらを見ていた。

「…なまえ」
「…私が、っ私が死ねば良かったのに…!」

ずっとずっと我慢していた感情が、綾部に悪態を吐くたびにボロボロと崩れると同時に、涙が溢れ出た。
どうして滝夜叉丸が死んでしまったの。
どうして私じゃなかったの。
そんな後悔の念を押し殺したくて、何も悪くない綾部に悪態を吐く私は、どこまで愚かなのだろう。

「……ねえ」

すると、綾部が口を開く。

「滝夜叉丸は、そんな事望んでないよ」
「……でも、」
「ね、なまえ」
「……」
「滝夜叉丸は流石に此処に埋めれないから、輪子ちゃんを此処に埋めてあげよう」

そう言って私が大事に抱えていた輪子を渡す様にと綾部が手を差し出した。
わかっていた。
綾部が、同室の死を何も思わず穴を掘っていた訳ではない事を。いつしか、穴を掘っている時は無心になれると言っていた綾部が脳裏を過ぎる。そんな綾部に私は泣きじゃくりながらも、輪子を綾部へと差し出した。


「…私、このまま生きていていいのかな」
「後追いとか馬鹿な事してもあの世で滝夜叉丸のながーい説教が待ってるだけだと思うけど」
「…ふふ、それは勘弁だな」

綾部が掘った穴に輪子を入れ、土を入れ直しながら話していれば、冗談めいた綾部の言葉に、自分語りをグダグダとしていた滝夜叉丸が思い浮かび、それと同様にグダグダと説教してくる姿さえも思い浮かんできて、思わず笑いが溢れてしまった。

そして穴を塞ぎ終え、上に小さいながらも色鮮やかな一輪の花を添えた。



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