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※注意 アイドル設定なし




「お前まだ居たのかよ」
「…なんだ、カラ松か」
「なんだじゃねーよ、ぶっとばすぞブス」


今日、私は失恋した。
相手は同じクラスの松野おそ松。
六つ子という何とも希少な兄弟構成の長男で、非常に面倒見が良く明るい性格で、誰からも好かれ親しまれる様な人だ。
そんな素敵な人に平々凡々な私が告白をしたなんて自殺行為だなんて初めから分かっていた。それでも、好きな気持ちを抑えられなかった。

放課後、極稀な確率でゴミ捨ての当番に当たった私とおそ松くんは、ゴミを捨て教室へ戻るまでに会話を交わし思った以上に会話が盛り上がった事に気持ちが昂ってしまい、そのはずみで気持ちを伝えてしまった。そんな私の言葉に、彼は申し訳ない気持ちを含んだ優しい笑みで「ありがとう、気持ちはとっても嬉しいよ」と返してくれた。それだけで満足だった。

だが、やはりすぐに気持ちは切り替えれないもので。私はそれから鞄を取りに教室に帰ると暫く呆然と自分の席に付いていたのだろう。誰もいなくなった教室に、窓から夕焼けが差し込んできた頃、ふいに開いた扉に私は目をやれば、そこには松野カラ松が立っていた。おそ松くんの六つ子の兄弟の内の一人だ。

「考え事してたらいつの間にかこんな時間になっちゃった」
「ちょっとって…HRから2時間は経ってんぞ」
「…カラ松は部活終わり?」
「ああ」
「じゃあ私も一緒に出るから待ってー」
「…おら、とっとと行くぞ」

好意もあってか、おそ松くんには感じる距離をカラ松には感じず(どちらも良い意味で)、ぶっきらぼうで口は悪いけど、とっつきやすく、友達想いだったり細かい事を気が付いたり何だかんだ優しい奴だ。



「うわー、大分暗くなってたんだね」
「気付いてなかったのかよ」
「そりゃあお腹も空く訳だね」
「…どっか寄って帰るか?」
「!…あー」

駅に向かう私の歩幅に合わせて、カラ松が自転車を脇に押しながら並んで歩く帰り道に他愛も無い話を繰り出していると、ふいに出たカラ松の言葉に私は一瞬ドキッとした。

「行きたいんだけど…今日は家でご飯用意してくれてるみたいだから、さ」
「…そうか」
「うん…。…あ、今日ね、大好物の揚げ餃子なんだ」
「へえ。お前大食いだからあんまがっつきすぎるとブタになるぞ」
「失礼ね。私は少食ですう」
「はっ嘘つけ」

一瞬、気まずくなった空気をどうにか持ち返す事が出来、内心ホッとした。別に、ちょっと寄り道してちょっと食べるくらいならどうって事ない。だけど、どうにも私は肯く事が出来なかった。

行ってしまえば、カラ松を期待させてしまうかも知れないと思ったからだ。

自意識過剰だと思われるかも知れない。だけど、以前から何度か遊びに誘われる事が多かった。友達として誘っているだけじゃないかと考えるのが普通なのだろうが、カラ松が私を見つめる表情が、接する雰囲気が、時折何かを感じさせる。まるで、私がずっと見てきたおそ松くんが誰か愛しい人を見つめる様な表情とそっくりで。そんなカラ松に、二人きりの誘いを今まで上手い理由を付けては断り続けていた。カラ松も何も言わなかった。きっと、私がずっとおそ松くんを見てきた様に、カラ松も私を見ていたのだと思う。(だから、私の気持ちもきっと、)



「駅まで送ってくれてありがとね!」
「家着く頃には今よりもっと暗くなってんだから気ぃ付けろよ。一応お前も女なんだからな」
「素直に心配してるって言ったらいいのに」
「は!?心配なんかしてる訳…!」
「はいはい、ありがとうね」
「だから違ぇって…!」

正直、行っても良いんじゃないか、と迷っていた。
もっと言うと、望みのない恋をするより、きっと受け入れてくれるであろう恋をすれば、気が楽になるんじゃないかって。(話しは合うし、ぶっきらぼうなりに優しくて、心配してくれて、おそ松くんの事を一切追求せずに、私を真っ直ぐに見てくれて、)


(だけど、)


今の気持ちのままカラ松に向き合っても、きっと傷付けてしまうだけだから。

「じゃ、また明日ね」
「おう」
「あ!また皆で遊びに行こうね」
「…ああ、そうだな」


(でも、この気持ちが消えた後ならば、なんて考えてしまう私はなんてずるい女だろう)


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