sss | ナノ


「いつもすまないね、なまえくん」

何月と家を空ける事はざらではない。だが、帰る度家の中は小綺麗で、まるでいつでも私を迎え入れてくれているような、そんな暖かみがあった。

「いいえ、半助さんがいつもお仕事を頑張ってると母から聞いているので、私も何かお役に立てたらと思っているだけですよ」

そんな空間を作ってくれている隣のおばちゃんの娘であるまだ十四、五のなまえくんは謙遜した様な笑みを浮かべて言葉を返した。
パチパチと焚き木が燃える音を耳にしながらきり丸がアルバイトでいない今、二人で囲炉裏を囲み鍋の具材を椀に装うなまえくんを呆けて眺める。ああ、家庭を持つとはこういう事なんだろうか。なんて思うと自然に口が開く。


「…君のお婿さんになる人は、嘸かし幸せだろうね。羨ましい限りだよ」


「!」

一瞬、自分でも何を言ったのか分からなかった。だが、視界に映るなまえくんの顔がみるみるうちに真っ赤になったのを見るとハッと我に返りあたふたと慌て出す。

「あっ…!いや、今のはっその…!」

なまえくんからすればおじさんに値するだろう二十五の男が一体何を言っているんだ、と訂正する様に上手い言葉を探していると、なまえくんは視線を鍋に落とし顔を赤らめたまま、ゆっくりと口を開いた。


「…じゃあ、半助さんが、幸せになってくれますか?」


「!…え、そ、それは……」
「はい、冷めないうちに食べて下さい」
「!」

先から上手く言葉が出ないまま頭ばかりが先走って動く。すると、私の言葉よりも早くなまえくんは手に持った椀をずい、と目の前に差し出し受け取る様にと促してきた。私は黙ったままそれをそっと受け取ると、互いに静かに笑い合った。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -