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「す、すき、だ」


これ以上はないと言う程に顔を茹で蛸の様に真っ赤にさせ、隈が酷い目で私を見つめる文次郎を私も見つめ返した。冒頭の言葉を辿々しくも繰り出した文次郎は続けてゆっくりと口を開く。

「俺と、付き合ってくれ、ないか…!」

彼の発する言葉をよそに、このままでは彼の体内温度が異常数値に達して爆発してしまうんじゃないだろうか。そうそれは卵を殻のまま電子レンジで温めた時の様に。(…なんてね)と余計な心配が脳裏を過る。



「…私にでさえそんな緊張してるんじゃあ、本人に伝える時心臓発作とかで死ぬんじゃない?」
「うっうるせえ!だから、こうして練習してるんだろう…!」

あーあ、これが本当の告白だったらなあ。

文次郎の幼馴染として早十数年。物心ついた時から隣にいて、気付けば高校生にまでなっていた。そして、幼馴染という関係には付き物であると言われる恋心を抱き、密かに想い続け、つい先日文次郎から「好きな奴が出来た」と聞かされ一人消沈していた。そして今、告白の練習に付き合ってくれと付き合わされている。

「そんなんで本当に大丈夫なの?そもそも成功する見込みがあるかも分からないんでしょう?」
「…分からねえが、ちゃんと気持ちは伝えたいんだ」
「……」

今までにこんな、照れた様な、それでいて真剣な表情を見た事があっただろうか。それ程までに、文次郎は好きな人に想いを伝えたいのだろう。

ああ、それが、その相手が私だったら良かったのに、と。

「…そっか。じゃあ、上手くいく様にもっと練習しなきゃね」
「お、おう。すまんが、もう少し付き合ってくれ」
「しょうがないなあ」


好きだ。


練習相手だとわかっていても、文次郎からそう言われる度に幸せな気分に浸る私は、きっとこれからも密かに想い続けることしか出来ない臆病者だ。



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