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「今日も鍛錬?」

手裏剣や苦無を手に取り懸命に的に向かう小さな背中に声を掛ければ、肩で息を整えながら潮江くんは振り返った。

「なまえ先生」

鍛錬の量に比例するかの様に流れる汗を見るや否や「頑張ってるね」と手拭いを渡せば潮江くんは礼儀正しく頭を下げて手拭いを受け取った。

「鍛錬するのは良い事だけどあまり無理しちゃだめよ」
「でも、1秒でも早く立派な忍者になりたくて」
「…潮江くんは頑張り屋さんだね」

まだ忍術学園に入学して間もないと言うのに早く立派な忍者になりたいと訴える彼の純粋無垢で真っ直ぐな瞳に思わず笑みが零れる。そしてそっと手を伸ばし彼の頭を頭巾越しに撫でれば、照れた様にそっぽを向く姿に更に笑みは深まる。

「…あ、あの」
「なーに?」

暫くされるがままであった潮江くんが不意に声を発したので私は手を止め言葉を返す。

「なまえ先生は、優秀なプロの忍者が好きですか?」
「…そりゃあ、まあ否定はしないけど、何事にも一生懸命であれば優秀で無くても好きよ」
「じゃっじゃあ、私が卒業してプロの忍者になったらお嫁に来てくれますか!?」
「!……」

先程まで体を動かしていた熱からなのか、はたまた勇気を振り絞った恥ずかしさからなのか、顔を真っ赤に染めた潮江くんに思わず黙り込み目を見張った。だが、すぐにくすりと笑い目を細める。

「そうね、潮江くんが一生懸命頑張ってプロの忍者になったら考えてあげてもいいわ」
「!ほ、本当ですか!?」
「ええ。…でも」
「でも…?」
「あまりにも三禁に溺れてはだめよ」
「!…わかりました!」

まだ幼くこの先に広がる世界を知らない彼に、きっとこんな話などすぐに忘れるだろうと少し軽い気持ちで答えるとまた彼は礼儀正しい返事をして嬉しそうに笑った。



後に彼がやけに三禁に厳しくなり、四六時中ギンギンに忍者をする様になるなんて、私はまだ知らない。



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