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「やあ、なまえちゃん。元気だったかい?」
「あっ利吉さーん!聞いて下さいよー!」

いつもの様に学園でのんびり(くのたまとしてこの表現はどうかと思うんだけども)過ごしていれば、不意に声を掛けられ振り向いた。声を掛けられた瞬間から誰かなんて分かっていて、振り向いた頃には私はぱあっと輝くような笑顔を振り撒き、声の主である利吉さんの元へと駆けて行った。


「それで、文次郎と小平太ときたらっ…!」
「ははは、それは困ったものだね」
「そうでしょう!?全くあいつらはもう…!」

ブツブツと文句を言いながら今しがた利吉さんへ話した事を思い出せばまたもやムカムカと苛立ちが舞い戻る。本当に忍たま達は入学当時から憎たらしい奴ばっかりだ。(向こうも向こうで同じ様に思っているのだろうけども)罠を張っただとか張ってないとか。薬を盛っただとか盛ってないとか。他人からすればお互い様だと切り捨てられる様な、そんな話を利吉さんはいつも親身になって聞いてくれる。

そんな利吉さんが私は好きだ。

―と言っても、恋愛対象だとかそういう意味ではなくて。山田先生のご子息である利吉さんは学園の最上級生である私よりも幾つか年上で、いつも兄の様な包容力で私を可愛がってくれている。だからこそ、私も兄の様に利吉さんに甘え、今もなお兄として慕っているのだ。(…卒業したら、もうこうやってお話しする事も無くなるのかな)


「…君は、忍たまと仲が良いね」
「ぅぇえ゛っ!?」

心中で一人勝手にしんみりしていれば、不意に利吉さんから耳を疑う様な言葉を放たれて思わず変な声が飛び出てしまった。

「そんな訳ないじゃないですか!今までずっと私の話を聞いててどこをどう…!」
「そうやって喧嘩出来るのは仲が良い証拠だよ。…羨ましいな」
「け、喧嘩なんて可愛いもんじゃ……!…え、利吉さん?今、なんて」

再び放たれた利吉さんの言葉に返答つつも、聞き捨てならない言葉に思わず聞き返した。そんな私にくすくすと笑う利吉さんの横顔は顔が整っているからかとても綺麗で見惚れてしまうものだった。それと同時にどこか切なげな雰囲気にドキッと鼓動が高鳴る。

「…私も、なまえちゃんと喧嘩してみたいな」
「え……り、利吉さんと喧嘩なんて、そんな」

まず利吉さんに対しての不満など一切無い中で喧嘩する要因など見つかる訳がない。すると利吉さんが私へ手を伸ばし優しく頭を撫でた。

「ははは、ごめん。流石に極端すぎたね。そうだな、言い方を変えようか。…私は君ともっと距離を縮めたいんだ」
「……な、何を言って…」
「いつまでも兄の様なポジションは嫌だなって、君と忍たま達の話を聞く度に強く思うようになったんだ。この意味分かるかい?」
「…わ、私だってもう六年生ですから、……」

分かります。そう出かかった言葉は喉の奥へと引っ込んだ。正直、頭の中は目紛しく回転して困惑していた。ずっと兄の様に慕っていた利吉さんが、私との距離を、縮めたいと言う意味は。しどろもどろと返す言葉を探していれば、不意に利吉さんが小さく笑った気がした。

「困らせて悪かったね」

そして、再び頭を利吉さんの大きな手が優しく撫で回す。

「早急に答えを求める様な真似はしないさ。学園にいる今は、兄の様に君を見守りたいと正直思っている。…でも、卒業したら、容赦しないよ」
「…り、利吉さ、」


「覚悟しておいてくれよ、なまえちゃん」
「!――っ」


今までの優しい笑顔や声色が、瞬時に妖しい色合いを魅せ、私の身体中を巡る様な感覚がした。ドクンドクン、と高鳴った鼓動は鳴り止むことを知らない。



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