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「好きです」


そう言えば、目の前の朴念仁が僅かに目を見開いた。かと思えば、すぐにいつもの様な表情に戻ると目を伏せゆっくりと口を開く。

「なまえさん…私が、貴女と住む世界が違うと言う事は…ご存知ですよね?」
「はい」

私が素直に頷けば、加々知さんは呆れた様な、そんな溜息を吐く。

加々知さんは少し前に私が働く会社にやってきた派遣社員の人だ。要領が良く今ではきっと私よりも優秀に仕事を捌いていると思う程。そんな加々知さんに私はすっかり心奪われていた。

それから暫くしてあとの事。休日にばったりと出くわした加々知さんは昨日まで会社で会っていたと言うのにまるで印象が違っていた。と言っても、髪の毛が伸びているような、そんな程度のものではあったが、一晩で髪の毛が目立つ程に伸びる事など大層な事である。そして更に、追い討ちを掛けた様にひょんな事で加々知さんが被っていた帽子が頭から落ちてしまうと現れた額の一本角。私と加々知さんは言葉を失った。


「加々知さんが、地獄の鬼という事はちゃんと理解しています」
「だったら、」
「それでも、私は加々知さんが好きです。加々知さんの本当の姿を知るその前からずっと」
「……」
「…分かってます」
「…え?」
「どうしようもない事だって、分かってます。…それでも、加々知さんに気持ちを伝えたかったんです。ですが、すみません…ご迷惑でしたね」
「…なまえさん」

ぎゅっと服を握った手に更に力を込めて私は、引き締めていた真面目な表情を綻ばせ弱々しい笑みを作れば、加々知さんは伏せていた目を開き、私を見遣った。



「…あと何十年か待って下さい」



「…え?」

すると不意に、意味のわからない言葉を放たれて思わず声が上擦った。だが、加々知さんは表情を変える事なく言葉を続ける。

「貴女の寿命は知る由もありませんので、それがいつなのかと明確にはお答え出来ませんが」
「…つまり、私が死ぬまで待て、と…」
「ええ、そうです」
「…そ、それって」

じんわりと加々知さんの言葉の意味を頭が理解していく。それに伴い、ドクドクと鼓動が速くなるのが分かれば、自分の目が、輝きに満ちていくのが分かった。



「死んだら、愛してくれるって、事ですか」



加々知さんは変わらない表情にどこか柔らかなものを含ませて、ゆっくりと頷いた。



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