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「相変わらず豪華な屋敷だわ」


久し振りにやってきた、見慣れた屋敷を見上げそう呟くと、制服のスカートのポケットを無造作に弄り、チャリ、と鍵を取り出した。
庭前の門を抜け、この屋敷のもにである鍵を穴に突っ込み軽く捻る。綺麗に嵌め込まれた気持ちの良い音が耳に入れば、扉の取っ手へと手を伸ばした。


「しんいちー?帰ってるー?」


玄関から突き抜けた書斎の方へと進みながら大きな屋敷に響き渡る様な声を上げる。

しーん


「…ま、帰ってないよね」

独り言の様に呟かれた言葉は部屋の中で只々虚しく消えていく。書斎まで来ると、壁一面に並ぶ本をぐるりと見回した。

「やっぱりこの部屋が一番落ち着くなあ」


同じ高校に通う工藤新一は私の幼馴染であった。同様に幼馴染である蘭と新一の喧嘩を宥めるのが小さい頃からつい最近までの日課であった。

そんな平凡な日々を過ごしていた中で、新一が突然消息を途絶えさせた。それでも、メールのやり取りは出来ているし、時々私達の前に新一は私の前へ現れた。(まあ現れたと思えばすぐに消えるんだけど)
そんな彼の行動は全く以って不可解極まりないものであったが、新一はそれについての答えは出す事なく、蘭は蘭で想いを焦がす新一がまた会いに来てくれるのを純粋に待ち続ける姿を見ていれば、私は何も言えずにいた。

そして、今日此処へ、新一の家へやってきたのには、何て事はない。以前に新一へ貸した本を返して貰う為だった。

「うーん…流石にこの広さじゃ、勝手に探して持って行けないか」

新一の家の鍵は、以前から預かっていた。それは蘭も同様で、たまに家の掃除をしていた私達にとっては必要なものであった。まあ、私は最近バイトを始めてあまり蘭と会ったり、新一との連絡も取っていなかったのだけど。そうして日々を過ごしてきた今日、私は久し振りにこの家へと訪れたのだ。

(それにしても、この綺麗さは、蘭が小まめに掃除してるのかしらね)蘭は今でも定期的に掃除しているのかと思える程に書斎の本棚は埃が被っていなかった。(相変わらず健気な奥さんだわ…て感心してる場合じゃなかった)この後もバイトがあるのだから、早く出なければいけないと思い出し、ポケットを弄れば携帯を取り出した。

【今新一の家にいるんだけどさあ、前に私が貸した江戸川乱歩の初刷本、どこにある?急に読みたくなったから返してほしいんだけど】


ガタン。


「!」


物音…?


メールを送信し終われば、ふいに扉に向こうで聞こえてきた物音に思わず体をビクつかせた。

「!こ、今度はメール…」

その物音のすぐ後に、今度は手の中で携帯が震えた。画面のロックを解除し、新一からだと確認すればメール画面へと移動した。(珍しく早い返信…)


ーガチャ。


「…え」
「おや…?見慣れないお客様…ですね?」


その時、先程物音がした方の扉が開き、風呂に入っていたのか、ぽかぽかと湯気を放ちながら少し乱れたバスローブを着た眼鏡の男性が現れた。

「…っき」
「き…?」

私は思わず、手に持った携帯を落としてしまう。だが、そんな事などはどうでも良かった。新一の家の筈なのに、目の前には、風呂上がりの見知らぬ男性。


「きゃああああああ!!」





これが、沖矢昴さんとの出会いだった。


私の落とした携帯の画面には新一からのメール本文が映る。

【あ、悪い!今、俺の知り合いの沖矢昴さんって人に家貸してるのなまえに言うの忘れてた!ちなみに本は沖矢さんが変えてなければ、机のすぐ側にある本棚の右から7番目だ!】


あの推理オタクバカ、絶対許さねえ。



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