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部屋で2人の時間を過ごすのは、とても貴重な時間。鬼灯は己の仕事過多を今までにも何度か恨めしく思った事はあるが、最近は更に酷くなってきている。そんな時間を埋める様にせめて、2人の時間にはなるべく側から離さずに、なるべく幸せに、過ごしたい。そんな思いを込めてなまえを後ろから抱きしめる。

「なまえさん」
「何ですか?鬼灯様」
「…その前に、鬼灯様と言うの、やめませんか」
「何でですか?」
「妙に堅苦しいし、仮にも私達は付き合っているんですから、もう少し距離を詰めて下さい。鬼灯と、呼んで欲しいんです」
「でも、鬼灯様は鬼灯様です。もし鬼灯、と呼んでしまったら、逆に苗字で呼んでるみたいで…私としては一番距離の近い呼び方が鬼灯様なんです」
「(苗字だけって…私の名前は様なのか?)…わかりました。それは結構です」
「で、本題は何ですか?」
「…なまえさんは、もし転生するとしたら、何になりたいですか?」
「…てんせい」
「私達鬼は、滅多に死ぬ事などありえませんから、例えばの話です。何言ってるの?みたいな顔はやめて下さい」
「そっか、そうだよね」
「(ほんとこの天然女は手がかかる…)で、例えば、転生するとしたらなまえさんは何になりたいですか?」

鬼灯に抱き締められながら、うーんと首を傾げるなまえを後ろから鬼灯が見遣れば、首に顔を埋める様にして軽く口づけを落とす。

「いきなり転生したら、なんて考えつくものではなかったですね。すみません…ですが、例えば現世で2人で人間になって、限りある人生を2人で送る、というのもまた粋な「きりんになりたい」…は?」

粋な人生ではないかと、聞いたくせに誘導尋問の様に鬼灯が話す中、今の話など全く聞いていなかったかの様になまえは唐突な動物を口にする。

「きりんって、首が長くて背が高いじゃないですか。あーんな高い背で見る景色って凄い気持ちいいんだろうなあ、とかぶんぶん首振り回してみたいなあ、とか時々考えるんですよね。だからきりんになりたい!」
「…きりん、ですか」


鬼灯が思う程、甘い時間が過ごせないのも、また一つ彼の悩みである。


(鬼灯様?鬼灯様は何になりたいんですか?)
(いえ、良いです。もうこの話はやめましょう)
(えー!なら鬼灯様も一緒にきりんになりましょう!鬼灯様と一緒ならきっともっと素敵です)
(…わかりました)
(やったー!)
(…どうしてこうも、私は貴女に甘いんでしょうね)



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