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「あっ…鬼灯さ、まっ…ま、待って…」
「…こんなに可愛く啼いているのに、待てる訳…っないでしょう?」
「あっ…や…やぁ…!」

リズミカルに動かれるそれは、私と鬼灯様を快楽へと導いていく。仕事漬けの日々の中での私達の情事は、もう百年ほど続いていた。
百年ほど前からの馴れ合いにきっかけなんて忘れてしまった。いつの間にか、徹夜で残業する私と鬼灯様はお互いに身体を求め合う仲になっていた。


「久しぶりに私となまえさんと重なって明日から2日ほどお休みが取れたので、どこかへ出かけましょうか」
「…へ?」

仕事が続く合間に鬼灯様と情事を交わすルーティンにすっかり慣れきってしまっていた私に鬼灯様が、ふとそんな言葉を投げかけた。
百年。私と鬼灯様は体を重ね続けてきた訳だが、別にそれ以上の関係は無かった。
正直、獄卒として働き始めた頃から私はずっと鬼灯様に恋心を抱いていたが、鬼灯様はそんな関係は必要ないと思っているのがひしひしと伝わっていたし、私もただただ側にいれるだけで良かった。だから今、こうして身体だけでも繋がれている関係で十分に満足していた。
(…あ、たまには環境を変えてシたくなったのか…百年も閻魔庁内でなんて身体だけの関係でも飽きちゃうもんね)
そういった関係の上で鬼灯様が誘って来たのは、新鮮さを持たせる為なのだろう、と私は理解すると快く頷いた。


そして翌日。
温泉旅行へと繰り出すべく、私と鬼灯様は目深な帽子を揃って被り現世へと向かった。
旅館へと向かう合間に観光スポットやら食べ歩きが出来る市場に立ち寄ったりと時間を潰していれば、何だかまるで恋人同士の様な気になってしまう。

「さーいらっしゃいいらっしゃい!ただ今期間限定のお化け屋敷やってるよー!おっそこの彼女さんと彼氏さんいかかですかー!」
「っえ、わ、私たち?」
「そうみたいですね」

ある程度フラフラと観光を堪能していれば、ふいにお化け屋敷の呼び込みであろうお兄さんに声を掛けられて思わずびっくりしてしまう。(やっぱり、恋人同士に見られてるんだ…)自分だけではならず、他人にさえもそう呼ばれてしまえば、思わず舞い上がってしまう。それが何だか嬉し恥ずかしい様な、でも恋人同士ではないのだからと何とも複雑な心境に私はどうしよう、と思わず鬼灯様を見遣った。だが、鬼灯様はいつもの様な表情で(喜ぼうが悲しもうがこの鬼神の表情は変わらないんだったわ)入りますか、と私の手を取ってお化け屋敷へと入っていった。


「やっと旅館に着きましたね!」
「ええ」
「それにしてもさっきのお化け屋敷、イマイチでしたねえ。まあ、私たちにとっては本来のお化け屋敷の楽しみ方なんて皆無ですが」
「しかし、もう少し凝った作りでないと普通の人間でも大して驚きませんよ。…さ、今日はかなり歩きましたし、なまえさんも疲れたでしょう。温泉に入ってゆっくりしましょう」
「そうですね」

お化け屋敷も軽く堪能すれば、私たちはやっと旅館へと辿り着いた。チェックインを済ませれば、何と私たちの泊まる部屋には温泉が着いていると言うから驚きだ。(ここの予約や支払いは全て鬼灯様が済ませてくれている。…と言う事は)

「ほ、鬼灯様…まさかお高かったんでは」
「貴女が驚く姿を見たかっただけですよ。高いとか、なまえさんが気にする事ではありません。さあ、温泉に入りますよ」
「……!」

部屋へと向かい、扉を開ける中で繰り広げられた会話を側から聞けば、どっからどう見ても恋人同士の様だ。(…何でそんな、サプライズみたいな事…)

今日一日、何だか彼女みたいな振る舞いを受けてきた私にはこれ以上は受け止めきれない程に胸が一杯一杯だった。そんな私を他所に、荷物をベッドへ放り投げ既に服を脱いでいた鬼灯様に、見慣れてるとは言ってもその鍛えられた逞しい身体に思わず目を逸らせば、早く入りますよ、と鬼灯様に有無を言わさず服を脱がされてしまう。そして素っ裸になった私を脇に抱え温泉へと向かえば、ゆっくりと地面に降ろされ、突如唇に噛みつかれる様なキスをされてしまう。

「んんっ…ほ、鬼灯様…ま、待って…!」
「いいえ、待ちません」
「ふっ…ん…」

いきなりの事に対応出来ないでいた私は大人しく口内に侵入する舌を受け入れてしまう。(…駄目だ。やっぱりこのままずっと、鬼灯様と関係を続けてしまうのは…)
そんな中で、私の頭の中にはそんな葛藤が生まれた。正直に言えば、それは突然現れた感情では無かった。身体の関係を続ける中で、ずっとずっと、脳裏に秘めていた感情。


「…っほ、おずき様…」


それが、私の脳内全てに侵食すれば、私は少し強めに鬼灯様の体を離した。

「…どうしました、なまえさん」

いつもとは違う私に鬼灯様は、少し眉を顰めた。私は鬼灯様の身体に手を伸ばしながらも俯いて今にも泣き出してしまいそうな涙を堪えた。

「…鬼灯様と、関係を持てた時は正直、身体だけでも十分だと思っていました。…けど、最近はずっとずっと…このままじゃ駄目だと思うようになり…ちゃんと、鬼灯様にお気持ちをお伝えしたいと」
「…なまえさん?」

「っ私は、ずっと鬼灯様の事が好きでした。…鬼灯様がそういった関係を求めていない事は感じていましたから、お答えして頂く必要はありません。も、勿論今日は鬼灯様にこうして旅館の手配やら何やらして頂いたので、鬼灯様の気の済むまで抱いて下さって構いません。…ですが、明日からは、もう身体だけの関係は…続けたくありません」
「なまえさん…」


ああ、言ってしまった。鬼灯様が今まで私を相手していたのはきっと割り切っている女だと思ってくれていたからだろう。だからこそ、今面倒な感情を向けてきた私にきっと幻滅してしまっている。嫌われてしまうかも知れないが、今後もこのまま身体の関係を続けてしまうよりかはずっとずっと気持ちが楽だ。私は、覚悟を決めたにも関わらず、鬼灯様の反応を少し怯えながら待った。


「…さっきから、何を言ってるんですか」

「…え?」
「私は既になまえさんとはちゃんとしたお付き合いをしているつもりでしたが」
「え…え?」
「確かに、そう言った言葉を交わした記憶はありませんが、私はそんな関係を持つ程軽い男ではありません」
「え…と、では、私たちって」
「恋人同士だと、私は認識していましたが」
「…!」

何という事だ。私の方が、勝手に体だけの関係と思っていたのだ。(だ、だって今までずっと会う度に抱かれてたし、今の今までどっかに出掛けるとか無かったんだし…!)
再び嬉し恥ずかしい様な感情が溢れ出してくれば、先程までこらえていた涙が一気に零れ始めた。

「ご、ごめんなさい。私ずっと勘違いしてしまっていて…!」
「…いえ、私も、ちゃんと言葉にして伝えるべきでしたね。すみません」

どうにか涙を止めようと必死に拭えば、鬼灯様の優しくて大きな手が私の頭を撫でた。

「好きですよなまえさん。もう既に私の中では付き合ってるので今更ですが、付き合いましょう」
「!ほ、鬼灯様…!わっ私も大好きです!」

そして、鬼灯様に初めて好きだと言われた事に感動を覚えると、勢いよく鬼灯様の胸へと抱き着いた。

「…とりあえず、寒いんで温泉、浸かりましょうか」
「!そ、そうですね…」



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