sss | ナノ


「あ、あの鬼灯様…」
「何ですか」
「そ、そろそろ離してくれませんか…?」
「ダメです」
「……」


獄卒として働き何百年。一年を通して数少ない休日は天国や現世に旅行しに行くのが唯一の楽しみ。
そんな私が、ふとある思いつきを実行したのが事の始まりだった。

「地獄の鬼からしてみればちょっとの数十年、現世に転生してただけなんですから…」
「その数十年、貴方は転生した事で、私を綺麗さっぱり忘れてどこぞの馬の骨ともわからない男と生を共にしたでしょう」
「そ、それは…」
「立派な浮気です」

恋人である鬼灯様を説得しきれないままに転生申請が通り、旅行に行ってくるみたいな軽いニュアンスで転生して、地獄での生活を綺麗さっぱり忘れて数十年の人生を真っ当に生き、寿命により舞い戻ってきた地獄では(正に)鬼の形相を構えた鬼灯様が待っていた。(初めは地獄での記憶が綺麗さっぱり無いから本気で怖かった)死んで地獄に来た際に、転生前に置いてきた抜け殻に魂を戻され、鬼灯様に呑まされた記憶を戻す丸薬により今から待ち構えている恐怖を理解するのには時間はかからなかった。
逃げる間も無く、鬼灯様の腕に引かれすっぽりと胸の中へと収まり今に至る。

「…黙って転生してごめんなさい」
「わかればいいんです」
「えっと、じゃあ離し「ダメです」な、なんで…」
「腕を離す事は愚か目を離したらどうせまたすぐに私に黙って転生申請出して浮気しに行くでしょう」
「う、浮気しに行ったんじゃないんですって…!」


「もう、貴方を側から離したくありません」


「ほ、おずきさま…」

後ろから抱きしめられる様な形で顔が見えないがどこか寂しげな声色で鬼灯様が呟き、ぎゅっと抱きしめる力が強くなる。そんな鬼灯様に、私は己がした事に対して改めて酷く後悔した。(…恋人に黙って転生して、記憶が無いにしろ知らない男性と何十年か浮気みたいな事されたら…嫌に決まってるよね…)

「…もう転生しませんし、何処にも行きません。ずっと鬼灯様の側にいます」
「…約束ですよ」

深く反省した事をわかってくれたのか、抱きしめる力を緩め私の体を反転させ向かい合う様に再び抱きしめられる。転生していた事により数十年、久しぶりに鬼灯様の温もりに触れると、とても心地良く私もぎゅっと鬼灯様の背中へ腕を回した。



「あのー…良い雰囲気のところ邪魔して悪いんだけど、ここ法廷だからもうちょっと場所考えてくれないかな?」
「(ハッ!)ほ、鬼灯様離してください!」
「ダメです。約束したばっかりでしょう」
「そ、そういう事じゃなくて…!」


(暫くは鬼灯様の膝の上で仕事してました)





×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -