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俺は桃太郎。
現世ではそこそこ有名であろう俺が、桃源郷の極楽満月で働き始めて幾度経っただろうか。そこには上司である白澤様がいて、店に来た客である女性に手を出したり、地獄の花街に遊びに行っては度々違う女性を連れて帰って来たりと遊びまくる姿にそろそろうんざりしてきた頃だ。(いやもう3日経ってくらいからうんざりしてる)

そんな体たらくな白澤様が、唯一誘わない女性がいると知ったのは働き始めて数ヶ月経った頃だった。


「こんにちはー」
「!なまえちゃん!いらっしゃい!」
「あ、なまえさん。今日はお一人なんですね」
「こんにちは、桃太郎さん、白澤さん」

ニコニコと天使のような笑顔で店へやってきたのは、地獄の閻魔殿で閻魔大王の第二補佐官として働くなまえさん。(鬼なのに天使の笑顔というのもおかしいものだ)いつもは第一補佐官の鬼灯さんと一緒に来るが、今日は珍しくなまえさん一人だ。

「今日は鬼灯様が、重要な仕事があるとかで来れないらしく、それなら私が一人で行くと言うと何故か止められたんですが、来ちゃいました」
「(ああ…まあ鬼灯さんが止める理由は何となくわかる)」

鬼灯さんの直属の部下でありながら、鬼灯さんとは真逆の様な陽気な雰囲気を醸し出しニコニコ笑うなまえさんが普段どんな仕事ぶりなのかを常日頃不思議に思う。なんて考えながらも白澤様へと振り返れば、白澤様は何故かいつもの様な女性に向けるヘラヘラした笑顔を作りながらもテキパキと金丹を風呂敷に包んでいく。(…アレ?)

「ハイ、頼まれていた金丹、これで全部だよ」
「ありがとうございます。では、お代を」
「ハイ、確かに」
「それではこれで。今度はお非番にでもお邪魔しますね」
「本当!?是非是非待ってるよ!またねー」

なんて当たり障りの会話を終えるとひらひらと手を振り、白澤様はなまえさんの去っていく後ろ姿を見送った。

「…え、白澤様」
「ん?なーに、桃タローくん」

「いつもなら女性が店に来た瞬間、鳥肌の立つようなくさい台詞ばっかり吐くのに、何で今日は吐かないんですか…?」
「君、失礼な事言うね。…別に、僕だって毎回毎回そんなだらしない事ばっかりしてる訳じゃないよ」
「(よく言うよ…今日以外の毎日はほぼほぼ女の子に声掛けまくってるくせに)もしかして、なまえさんは白澤様の好きなタイプじゃないんですか?…うおお!」

女性なら誰でもいい訳ではないのだろうか、と聞いてみると何故か白澤様の顔が一気に険しくなり、勢いよく顔を寄せてきた。

「んな訳ないだろ!めちゃくちゃ好みだっての…!」
「…え?」
「あの妖艶な容姿、艶やかな肌、スラッとした手足…おまけに鬼なのに天使、いや大天使の様な笑顔振り撒いてるんだから、もう…!」

言葉を並べる毎にわなわなと震えだす白澤様に、俺はどことなく白澤様が手を出さない理由がわかった気がした。

「ああ…要は手が出せない程なまえさんに熱あげてるんですね…」
「まあ、誘ったところで返ってくるのはなまえちゃんからの返事じゃなく、あの朴念仁の勢い余った拳だろうけど」
「…(揃いも揃って一人の女性に夢中とは…。まあなまえさん美人だしわかるけど)」

白澤様でも好きすぎて誘えないなんて事があるのか、と感心(?)しながらもいつもそうやって大人しく仕事してくれれば毎日平和に過ごせるのに、と思いつつ叶わない事だとすぐに悟る。



「あのー」
「!!」
「わ、びっくりした!なまえさん!どうしたんですか?忘れ物?」
「ええ、まあそんな感じで…白澤さんと桃太郎さんに食べてもらおうとお菓子持ってきてたの忘れてました」

えへへ、とうっかり忘れてそのまま帰りそうになったと照れながら笑うなまえさんに俺すら目を奪われてしまうのだから、白澤様はどうなってしまうのだろうか。ちら、と隣を見れば今まで見た事ない程に顔を赤くしてなまえさんから目を離せずに呆然と立ち尽くしていた。(もしかしていつもは鬼灯さんがいるから意地張って平然を装ってたのか…?)

「白澤さん…?」
「!ああ!ありがとうね!あ、もしかしてなまえちゃんの手作り?」
「はい。でもそこまで料理が得意ではないので、あまり美味しくないかも知れませんが…」
「絶っっっっっっっ対美味しいに決まってるよ!」
「(コイツめちゃくちゃなまえさんに惚れてるな…)」


「…あ、白澤さんの髪にゴミが…」

「!!」


ふと、なまえさんが白澤様の髪に目を止まらせ、ついていたゴミを取ろうと手を伸ばす。髪に手が触れた瞬間、白澤様は頭から煙が出るんじゃないかと思うほどに元々赤くなった顔を沸騰させた様に更に赤くさせ、そのまま勢いよくぶっ倒れた。

「ええ!?白澤様!?(何で急に女の子に免疫ない奴みたいな事なってんの!?)」
「白澤さん!?大丈夫ですか!?」




それから暫く白澤様は寝込んでしまい、極楽満月はその間休業となった。
(ここまでとはいかないで欲しいけど、出来れば毎日なまえさんが来てくれれば、白澤様も大人しく…いや、なまえさんの名前だけでも出して脅せば少し位は平和になるんじゃ…?)
俺は看病しながらも、白澤様の弱味を握った様なそんな優越感が少し芽生えた。





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