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「何ですかコレは。嫌がらせですか」


閻魔殿の食堂のカウンターでいつもの顰め面をより険しく顰めさせ、カウンターを隔てた厨房側にいる目の前の鬼女に向かい、いつもより少しだけドスを効かせた声で鬼灯は言葉を放った。
閻魔殿、否地獄の裏ボスである鬼灯の怒声に食堂内は一瞬にして静まり返る。

だが、その静けさはまた一瞬にして、賑やかな雰囲気を取り戻す。


「…え!何でみんな普通にしてるの?鬼灯様めっちゃ怒ってるのに…!」

そんな中、シロや柿助、ルリオは食堂内の皆の対応にわたわたと困惑していた。

「いつもの事だから大丈夫だよ」

すると、鬼灯と一緒に食堂へ来た閻魔大王が先に席についており、シロの言葉にニッコリと笑って返すとシーラカンス丼へと手をつけ始めた。
そんな閻魔大王に三匹は同時に首を傾げる。

「いつもの事…?」
「うん。まあ大体はあんな感じかな?」
「でも鬼灯様に怒られてる女の子、泣いちゃうんじゃ…」



「ですから、今日の日替わり定食はトッポギに豚キムチ炒めにエビチリにスンドゥブチゲと麻婆豆腐丼の辛いものフェアなんです。あ、デザートはプリンです」
「日替わり定食でフェアとかふざけた事やらないでしょう普通。注文する客層の偏りが半端ないし、そもそも今日の入口の看板に書かれている日替わりメニューと大きく違いますよね。プリンも一言も書かれてないですし。立派な詐欺ですよ。黒縄地獄にでも落としてやりましょうか」
「嫌だなー。いつもこの食堂をご贔屓にして頂いてる鬼灯様への、特別な限定日替わりメニューなんです」
「では完全なる嫌がらせととって問題ありませんね」



(((あの鬼灯様と言い合ってる…!)))

閻魔殿では結構な評判である食堂の看板娘のなまえを心配して見てみれば、笑顔で鬼灯へと言葉を巧みに返している。そんな姿にまたもや三匹は困惑して二人の言い合いを見入っていた。

「あの二人の喧嘩は有名なんだよ」
「そ、そうなの?」
「うん。なまえちゃんて、どことなく鬼灯くんみたいな感じなんだよね。変に頑固と言うか何というか…」
「似た者同士ってこと?」
「そうだねえ。似過ぎてて衝突するみたいな…簡単に言えば、白澤くんと同じポジション?」
「白澤さんは性格(生き様?)が真逆だから合わないのは何となくわかるんだけど…似過ぎてても合わないのかあ…難しいね」

シロがふ、と白澤のにこやかなのか軽薄なのかわからない笑顔を思い浮かべながら、うーん、と唸った。



「大体、貴方この前もご贔屓に、とコーン炒めを追加してくれましたけどあれも嫌がらせですよね。ナメてるんですか」
「あの時は鬼灯様がコーンお嫌いだなんて知らなかったんですよー」
「どの口が言いますか。お盆下げに来たら【ちゃんと食べてくれたんですね】って明らか知ってる口ぶりで笑ってたでしょう」
「そんな昔の事は忘れました。で、どうしますか?日替わり定食はやめて別のものにしますか?」
「いいえ。貴方が軽率に始めたフェアの為に食材が無駄になるのは勿体無いので、全く気が進みませんし食欲もそそりませんが、このままで結構です。その代わり、看板に書いてある今日の本来の日替わりメニューの鯖の味噌煮もつけて下さい」
「…仕方ないですね」



「…え!結局食べるの!?」

先程に引き続き、何やかんやと言い合った二人が何故かお互いに妥協して収拾しそうな様に、シロは再び声を上げた。

「鬼灯様、辛いもの食べれないんだよね?ていうか、明らかに鬼灯様への嫌がらせの定食だよね?新しいメニュー出してもらえばいいんじゃ…」
「いつもなら辛いものになんて手を付ける事はないんだけどね、なまえちゃんが出したものは何が何でも食べ切ろうとするんだよね」
「ええー…意地?」
「だろうね、多分」
「ふーん…世の中はまだまだ謎がいっぱいだね」

何故、大嫌いなものしかない(妥協から本来のメニューが一品追加された)定食を意地にしてまで食べようとするのか。シロはそんな鬼灯の行動に首を傾げて呟いた。そんなシロに賛同するように閻魔大王もウンウンと頷きながら湯呑みへと手を伸ばす。



「というか、あの二人があれで恋人同士ってのが、地獄で一番の謎だよ」



「「「…ええ!?」」」

そして、閻魔大王のここ近年で一番の衝撃であろう発言に三匹は再び振り返り、未だ細かい事で言い合う鬼灯となまえを見遣った。

「…そういう事ならあの言い合いも何か可愛く見えてくるな…」
「俺もわかる…」
「え!なんでなんで!?」

二人が恋仲だと言う事は、あのふざけているような内容の喧嘩は、要は痴話喧嘩(イチャついているだけ)なのだと理解したルリオと柿助は脱力、否、小さくため息をつくと唯一理解出来ていないシロを連れ不喜処へ仕事に戻る為、食堂を後にした。





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