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「そろそろ子作りしませんか」




仕事場である閻魔殿の主軸ともいえる法廷。
そんな神聖な場所で、休憩中とは言えども、仕事の鬼だと代表して言えるであろう目の前にいる鬼神はそう言った。
仕事もひと段落つき、亡者が裁かれ法廷から出て行った直後の静けさの中で、それはもう私の脳…いや、法廷内に響き渡った。その言葉を聞いていたのは私だけではなく、今の今まで亡者に判決を下していた閻魔大王様も開いた口が塞がらずにいた。

「…今、なんて言いました?」
「そろそろ子作りしましょう、と言いました」

「…まだ付き合って一週間、ですよね?」
「付き合ったら以降、月日は関係ありません」
「いやいや関係ありますよ!こ、子作りだなんてお互いの信頼関係や愛を育んでからするものでしょう!ていうか、子作りは結婚してからじゃないと…!」
「まどろっこしいですね。まず私は貴方と付き合う際に結婚しませんか、と仰いましたよね。そして、それを貴方は承諾したはず」
「待って待って。飛躍させすぎたって反省してから告白し直してくれたじゃないですか。承諾したのはそっちです」
「おや、そうでしたか。わかりました。ではもう結婚しましょう。そうすれば子作りする事に対して何の問題もありませんね」
「だ、だから展開が急なんだって…!」


鬼灯様にサプライズの様な告白をされてから一週間。
あの日を境に鬼灯様との距離はグッと縮まり、仕事も今以上にスムーズに進む様になった。鬼灯様も以前より何だか丸くなったというかマイルドになったというか何というか。(大王様に対してもほんの少し優しくなった様な)(大王様に何故か無茶苦茶感謝された)
だが、子作りとは断然に話が飛びすぎている。先程言った様に、鬼灯様とは付き合って一週間で、ましてややっと最近キスしたばかりだと言うのだ。(そりゃ鬼灯様に私との子供が欲しいなんて言われた様なものだし死ぬ程嬉しいけど…!まだ、普通に結ばれてもいないのに、恥ずかしすぎる…!)


「…私とは、嫌ですか」
「!……」

ぐるぐるとフル回転する頭で混乱し、煮え切らない私の反応に、何だか以前にも聞いた様な言葉を突きつけられる。

「…誰も嫌とは、言ってません」

そして、以前よりもわかりやすく見せつける様な項垂れ方をする鬼灯様が、何だか可愛いと思う反面、ずる賢いと思ってしまう。(私が、一番弱い部分を的確に突いてくる)

「では…?」
「…私も、い、いずれは鬼灯様と結婚して、鬼灯様の子供を産みたいとは、思ってます…」

恐らく、わざと私にこんな恥ずかしい言葉を吐かせているのだと、わかっていながらもどうにも逆らえない私は顔を火照らせ俯きごにょごにょ答える。すると、ガッと鬼灯様に肩を掴まれる。

「では大王。今から役所に行って籍入れてきます」
「え!今から!?」
「は!?ちょ、鬼灯様!い、いずれはだって…!」
「いずれも今も変わりません。はい、さっさと行きますよ!…ああ、もし籍を入れずに孕まされたいなら望み通り孕ませ「いい行きます!今すぐ鬼灯様と籍を入れに行きます!」という事で大王、私となまえさんは昼以降有給を頂きます」
「…い、行ってらっしゃい…」

強行手段と言ってもいい程の言葉に私には元より選択権など無かったのだと思い知らされる。そんなやり取りを一部始終見ていた大王様に、有無を言わさぬ速さで法廷から私を連れ去って行く鬼灯様を、大王様もあまりの大胆さにまだ開いた口は塞がっていなかった。


そして、私は一度決めたらやり通す鬼灯様とこのまま役所で籍を入れ、そのまま鬼灯様の部屋へと連れて行かれるのであろうと思うと、腹を括るしか無かった。
(…恐るべし地獄の裏ボス)
(それにしたって子作り、なんて…!何回も言うけどまだ付き合って一週間なのに…!)
そんな事を思いながらも、私も何だかんだ嬉しさが込み上がる気持ちを抑えきれずにいた。





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