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どうすれば、白澤は私だけを見てくれるの?

あれはもう、いつだったかな。
随分前に、今思えばきっと未来永劫(計測不能)叶わないであろう、そんな言葉を目の前にいる神獣の白澤に投げかけた事がある。

「…そうだねえ、僕も頑張ってなまえちゃんだけを見る様にしたいんだけどさ」




「どうして早い内に関係を切らなかったんですか?貴方は馬鹿ですか?」
「…馬鹿なんだろうね」

カリカリ…と書類を走るペンの音が響き渡る閻魔殿での仕事の中、隣に座る同僚の鬼灯が、毎日と言っていい頻度で耳が腐る程に浴びせて来る言葉に、胸を傷めつけられるのもそろそろ慣れてきた頃だ。
そりゃあ初めのうちは、「いつかは私だけを見てくれる様になる」だとか「若い(?)内は遊びたいんだから私が目を瞑るしかない」なんてまるで自分に言い聞かせる様な言葉を返していたが、もう私には自分自身ですら言い聞かせれる程の言葉も精神も残っていなかった。

「おや、自覚しているのに切れないとは。よっぽど今の現状を悲劇のヒロインだと思い込み、そんな自分に酔いしれている痛い鬼女ですね」
「別に、そんな下らない事考えてないけど…」
「ほう。ではただ単に諦めきれないと?」
「……わかってて聞くあたり、本当鬼灯って正真正銘の…いや。やっぱ何でもない(どSだなんて本人に言うものなら否定されてそこからくどくど長くなりそう)はあ…。無理矢理にでも、私の心から白澤が居なくなる道具みたいなもの無いかな」
「そんな人の心を操れる道具があるのであれば私が買い占めてやりたいくらいですよ」
「…(買い占めてどう使うのか鬼灯の考えてる事がちょっとわかるのが恐ろしい)」
「いっそのこと、貴方が閻魔殿から出られない様に縛り付けるか監禁でもして、あの白豚と会う事が無くなれば自然に忘れられるんじゃないですか?」
「前半が明らかに自然じゃないよね」
「よくなまえさんは、仕事が残っていても残業もせず天国に行くもんですから、閻魔殿から出られない様にすれば仕事も円滑になって一石二鳥だと思うんですよ」
「の、残ってるって言っても次の日にすぐ終わらせれる書類ばっかじゃない…。ちょ、何で手首を掴んでるの?まさか今の狂ってるアイディアまじで実行する気?」

グッと、馬鹿力の鬼灯に手首を掴まれた私は身動きがとれず、ゆっくり血の気が引いていく。



「おい、僕の彼女に何してんだよ朴念仁」

「!白澤…!」

すると、遠くにある閻魔殿の入り口の方から、愛しい声が聞こえて来るとすぐさまそちらへと振り向いた。(同時に隣で大きな舌打ちが聞こえる)

「何ですか、自分は見境がない程に女性に目を配らせているというのに、なまえさんには誰とも接触させないつもりですか。神獣のくせに随分セコい脳みそしてますね」
「うるさいな。お前には関係ないだろ」
「は、白澤…どうしてここに?」
「もうすぐ昼休みでしょ?店の客が良い具合に引いたから遊びに来たんだ。ついでに頼まれていた金丹も持ってきてやったんだから有り難く思え」

わかりやすい程に私に見せる笑顔と、鬼灯に向けるふてくされた顔。どんな表情でも、やはり白澤が大好きだ。まるで付き合いたての様な初々しい感情を抱きながら白澤に思わず見惚れていた。

「…はあ。なまえさん、コイツがここに居ては邪魔で仕事も捗りませんので少し早いですが休憩にしましょう。さっさとその年がら年中発情期の白豚連れて昼食にでも行ってきて下さい」
「いちいち癇に障る奴だな…」
「まーまー。ありがとう、鬼灯」

鬼灯も鬼灯で、わかりやすい程に白澤が現れた事によって放たれた不穏な空気感に私は白澤を宥めながら席を立ち閻魔殿から立ち去ろうとした。


「…なまえさん」


「ん?」
「…いえ」

その時、ふと鬼灯に名前を呼ばれ振り向くとじっとこちらを見つめて言いかけていたであろう言葉を飲み込む様に書類へと視線を戻した。

「…ありがとう」

だが、私には鬼灯の言いかけた言葉が何だったのか、大体はわかっていた。毎日と言っていい程に罵声を浴びせてくるが、心配してくれているのだと。私はそんな鬼灯に笑いかけると、白澤の隣に並び再び足を進めた。

(少しだけ、本当にあのまま閻魔殿に縛り付けられてもいいかななんて、思った)
(だけど、会いにきてくれた白澤にこれから先いつかは私だけを、なんて期待してしまう自分もいるのは鬼灯の言う通り酔いしれてるんだろうな、なんて)





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