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【CMの後は、オーストラリアといえば!お馴染みのコアラとゴールド・コーストのパラダイス・カントリーでご対面です!】



「はい、カット!」
「テープチェンジしますので休憩して下さーい」
「なまえちゃん、お疲れ様ー」
「お疲れ様でーす」

ふう、と息を吐き世界のふしぎを発見するべくして放送される番組のCMシーンへと突入する。

「(…世界ってまだまだふしぎがいっぱいなんだなあ)」

この番組のミステリーハンターとして出演すること早3年。ありきたりである内容は勿論あるが、まだまだ自分の知らない世界、動物がいる事に日々感極まるばかり。

「(…そういえば、地獄とか天国とかでもそこにしかいない生物がいたりするんだよね)」

ふ、と不確かな事さえ考えると凄いなあ、なんて惚けてしまう。学生の頃に生物全般に興味を持ち、そこから学んだ結果、今のミステリーハンターという某番組の仕事に至る。世界各地を飛び回り、様々な人種、生物とふれあい私は毎日良い意味で刺激されていた。そして何故だか生まれた時からこうなる事が決まっていた様な、そんな感覚さえも感じていた。


「なまえちゃん、飲み物どう…あっ!」
「わっ!大丈夫ですか?」

そんな事を考えていると、遠くの方からメイクさんが飲み物を抱えてやってくるのが目に映る。それからすぐ近くまでやってくると、飲み物を渡そうとしたが、飲み物が手から滑り落ち倒れるかと思いきや、再びグッとメイクさんの手の中へ収まる。

「私は大丈夫なんだけど、なまえちゃんの衣装にちょっと飛び散っちゃって…」
「あー、これくらいなら目立たないし水で洗えば落ちますよ!私ちょっとあっちで洗ってきますね」
「ごめんね」



「…よしっこれなら全然わからないよね」

水飲み場で服の裾に濡らしたハンカチを当てがい、シミが残っていないか確認する。

「すみません」

すると、後ろから声をかけられ振り向けば、青いキャスケットを被った何やら私と同じ日本人の様な男性が無表情で私を見ていた。

「あ、はい?」
「なまえさんですよね?」
「そうですが…」


「やっと、会えました」


たまに私をテレビで見て声をかけてくれる人はいるがまさか外国で日本人に声をかけられるなんて思ってもみなかった上に、急にそう言われて、深々と頭を下げられる。

「あ、えっと…お知り合いでしたか?」
「いえ、そういう訳じゃないのですが…貴方には一度お会いしたいと思っておりましたが、いつも私のところに来る事もなくすぐに転生してしまうもので」
「?」
「ですが、絶対に貴方は毎回ミステリーハンターになってくれるので、見つけるのは簡単でした」
「??」
「しかしリアルタイムで会おうとすると仕事の都合だったりで行けなかったのですが、ようやく会う事が出来て嬉しいです」
「???」

男性の言葉に頭の中ははてなが次々と生まれていく。(もしかしてかなり重症なストーカー…?いや、でも)普通に考えれば、ファンをこじらせたストーカーの様な、妄想を含んだ怖い発言であるが、どうにもこの男性が妄想や冗談などを言っている様には思えなかった。


「そろそろ休憩終わりまーす」


「あ…すいません。そろそろ行かないと…」
「いえ、こちらこそお時間取らせてしまい申し訳ありません。ですが…」

遠くからディレクターの声が聞こえ、現場に戻ろうと男性へ頭を下げると、男性は私よりも更に深く頭を下げ何とも礼儀正しく謝った。そして、頭を上げると言葉を続けた。

「現世でミステリーハンターとして活躍する貴方を見るのも良いですが、そろそろ一度くらい、是非私の下で働いてほしいものですね。では」
「あ…」

そう言い終えると無表情のまま男性は去っていく。

「あ、あの!貴方のお名前は!」

そんな男性に私は思わず叫んでしまった。男性は立ち止まり振り返ると、無表情だがどこか柔らかく笑った様な、そんな感じがした。

「鬼灯です」


「……鬼灯さん」

私の言葉に応えると、再び歩き出した男性の背中を見届けながらも、ふと休憩が終わる事を思い出し、急いで皆の元へ足を進めた。

(転生…現世…?よくわからないけど、何だかあの人が現世の人じゃない様な言葉ばっかり…)

絶対に、良い印象の抱かない言葉ばかりが飛び交っていた事は間違いないが、私は何故かあの男性に興味を持ってしまった様な、わくわくと好奇心をくすぐられた様な感情が生まれていた。




それから、確かな確信を生むのは死んでからのお話。





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