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「私、鬼灯さまと付き合う事にしたの」
昔から側にいたなまえちゃんにそう言われると、僕の頭の中で一気に沢山の言葉が飛び交った。

なんでよりにもよってあいつなんだよ?
やめときなよ。
鬼の中の鬼みたいな奴だよ。
あんな朴念仁のどこがいいの?

僕みたいな奴じゃないから?

昔から僕の女の子へのアプローチを、なまえちゃんはいつも隣で見ていた。別に反対する訳でもなく、軽蔑する訳でもなく、かと言って肯定して世話焼きのようなお節介の言葉も無く、ただただ干渉する事なく見ていた。
家族でも何でもない、ただ、ずっと側で過ごしてきたから何となく、何かしらお互いに想っている事は知っていた。勘違いじゃない。不思議とその確信は持っていた。
元々、女の子が目の前に現れれば絶対に誘う。がモットーである僕にとって、例え何を言われようともそれが変わる事はないのだけれど。どうにも腑に落ちなかった。
口下手だとか、大人しいとか、そういうのでもなく、いつも僕にははっきり思った事を口にする子なのに。
だから、僕も気にする事なく、今まで通り自分の思う生き方をしてきた。

それなのにある日突然、まさに今日、なまえちゃんは嬉しそうにはにかみながら僕に冒頭のあの大嫌いな鬼神との交際宣言であるその言葉を突き付けてきた。
「お店はこれからも今まで通りお手伝いするんだけど、鬼灯様と一緒に住む事にしたの」
ほら、思った事やしたい事はすぐさま実行する子なんだ。ずっと側にいたんだから、それくらい知ってるよ。

「…そっか。おめでとう」
ここまで色々と沢山の言葉が脳内で飛び交った結果、出した言葉は何とも素っ気ないような、祝福の言葉。なまえちゃんはそんな言葉にありがとう、と優しく笑うと荷造りを始めると言って店を後にした。
その姿を見送った僕はどっと疲れた様な感覚に襲われ、深いため息をついた。すると、何故かじわりと目の奥から熱いものが込み上げ、涙が溢れ始める。
いやいや、なんで泣いてるんだよ。
なんて、自問自答しながらも、本当は心の奥ではしっかり理解していた。お互いに何かしら感情を抱いていたものの、僕はずっとなまえちゃんだけは誘う事が出来ずにいた。手当たり次第女の子を誘う様になったのだって、僕の天性であるにしろ、本当はなまえちゃんの気を引きたかったという事が1番の理由かもしれない。
それが当然の結果である事はわかりきっているが、僕の反面教師であるあいつを好きなったのだろう。
ならば、早くその気持ちを伝えればよかったのか?等と考えてみるものの、それは無理だとすぐに答えは出てしまう。女の子と遊ぶきっかけが何だったにしろ、きっと遅かれ早かれ僕の天性は発揮されてしまう。

「…僕って馬鹿だなあ」

ただただ怖かった。
なまえちゃんを真っ直ぐに、なまえちゃんだけを愛する事が出来ないとわかっていたのがこれ程までに怖かった。
だが、あんな朴念仁に奪われるくらいならば、さっさと僕の手中に収めておけばよかった。そんな悔しさがあるのは事実だが、それと同時に心のどこかでホッとしていた。

僕といるより、あいつの方が悔しいけどきっとなまえちゃんを幸せにしてくれるだろう。
なんて、臆病者の言葉に過ぎない。





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