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「平次」


ガチャ、と俺の部屋の扉を開けたのは、俺の親父が昔世話になったとかいう知り合いの親戚である小学1年生のなまえ。俺ははあ、とため息をつきながら開いた扉へと顔を向けた。

「あのなあ、いい加減呼び捨てはやめ言うてるやろ」
「だって平次は平次でしょ?」
「平次”お兄ちゃん”や」
「…はーい」
「(絶対呼ぶ気ないやろこいつ)」

最近、諸事情や何やらでこいつの親が遠くに行かなあかんなったとかで親父の知り合いも面倒見れんから俺の親父がなまえを一時的に引き取る事になったらしい。(なんやどっかの誰かさんと似たような怪しいシチュエーションやわ…)
俺の両親はよう小ちゃなった工藤と仲良い俺を見て子供好きやろ的な感じでほぼほぼ俺に面倒を任せっきりで、なまえも懐いてるんか知らんがよく俺の側でうろちょろしてる事が多い。(それはまあええ。懐いてるんならそれはそれで可愛いんやけど…)

「またこんなに服散らかしてる…ちゃんと畳まないとシワになっちゃうよ」
「……」
「そう言えばもうすぐテストなんでしょ?ちゃんと勉強してるの?剣道と推理だとかに夢中なのはいいけどちゃんと勉強しとかないと将来立派な仕事に就けないよ」
「だー和葉よりうるさいやっちゃのう!小学生のくせにお前は俺のおかんか!しかも今勉強の真っ最中じゃ!邪魔せんよう出てってくれ!」



何か違う。
小学生のくせに、まるで俺の方が子供のような言い草をしよる。(絶対懐いとる訳ちゃうぞこれ)かと言ってずっと生意気な事を言ってる訳じゃなく、たまに無邪気に笑いながらくっついて歩いたり、一緒に寝てくれとお願いしにきたり可愛い一面も見せてくる。そんななまえを心から憎む事は出来る訳ないが、俺は机に向かい勉強する最中、痺れを切らしてなまえを部屋から追い出すように叫ぶ。するとなまえは面白くないと言ったように口を尖らせて(こういう時だけ子供みたいな顔しよってからにタチが悪い)部屋から出る足を進めた。

「あ、平次」
「何やまだ文句あんのか」

ガチャ、と再び部屋の扉を開けた音が聞こえたすぐになまえは俺の名前を呼ぶ。俺は振り向く事なく素っ気ない返事を返す。(子供相手にムキになってるあたり俺もまだまだ子供か、いやでも)教科書に目を通しながらも少しの苛立ちが集中力を飛ばしてくる。




「私は、平次のお母さんじゃなくてお嫁さんが良いかな」




「!!!」

ついさっき聞こえたなまえの声が、何倍もの近さで耳に響き渡る。内容も内容やけど、さっきよりも断然違う少し艶美な話し方に、思わずバッと後ろを振り返る。そこには既に部屋の扉の方へ戻り俺に向かい無邪気に笑いながら部屋を出て行くなまえがいた。

「テスト頑張ってね。平次”お兄ちゃん”」




いつもの子供の話し方に戻ったなまえは最後にそう言い残し部屋の扉を閉めた。呆気に取られた俺は未だ閉じられた扉を見つめ、徐々に顔が熱くなるのがわかった。

それと同時に、俺は手元にあった携帯を掴み工藤に電話を掛けた。そして通話が繋がった事を確認するとゆっくりと口を開いた。

「もしもし工藤?すまんけど、ちょっと調べてほしい事があるんや」




以前から、少し心のどこかで疑いをかけていた事があった。

「なまえっていう女がどっかで行方不明になってないか調べてほしいんや…。おう、頼むわ」

それはきっと、確信に近い。
調べたところで、それがなまえと繋がるかはわからんが、俺はどこかで、それを期待して。





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