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いつもより少し早起きをしてみた。理由はある。だって、いつも通りの時間に起きるとあの人は既に私達クルーの朝食を並べているから。

ならば、と早起きをしてみた。少し眠たい眼をこすりながらも、いつも通りの時間ではないキッチンにきっと彼がいると胸を躍らせながら向かう。

「…!」
「あれ、おはようなまえちゃん。いつもより早いね」
「お、おはよう」

やっぱり、いた。
キィ、と鳴らすキッチンの扉を開けるとそこにはキラキラと輝く金色の髪が目に入った。そして、扉の音に気がつき振り返った愛しいサンジくんの笑顔。やっぱりいつも皆よりも早く起きて朝食の準備をしてくれていた。(いつもこんなに早いのか)私は予想していたのにも関わらず大きく鳴り動く心臓を落ち着かせながら、動揺を隠し椅子へと座る。

「い、いつもこんな早くから朝食作ってくれてるの?」
「まあ、いつ何時でも手を抜かず美味いメシを作るのがコックってもんだろ」

私の問いかけにもサンジくんは手際よく朝食を作りながら返答する。そんなサンジくんに思わず背中越しから見とれてしまう。

「なまえちゃんは、いつもより早く起きてまだボーッとしてるんじゃないかい?」
「え、あ…ちょっと」

ふいに、くるりとこちらを見遣るサンジくんに思わずドキッと体を跳ね上げてしまい、火照る顔を隠すように俯く。すると、コト、とテーブルが音を鳴らし、少し顔を上げた先には暖かいコーヒーと小さなクロワッサンが置かれていた。

「眠気覚ましにどうぞ」
「あ…ありがとう…!」
「ちゃんとした朝食は皆揃ってから、一緒に食べよう」

なんて紳士なんだろうか。私はそんな事を思いながらコーヒーを手に取り口に運ぶ。何だか、いつもよりとても暖かいような、ホッとするような、幸せになるようなうまく言い表せない味がした。コーヒーを飲み少し気持ちが緩んだのか、そこから私はサンジくんと2人きりの時間を満喫していた。


「それでねっ…」
「うん」

長い事話し込んでいた途中、料理をテーブルに並べ始めたサンジくんを見るとハッと我に返った。

「あ、えっと…ごめんなさい。サンジくんがせっかく朝食作ってくれてるのに私夢中で話し込んじゃって…並べるの手伝うね」
「そんな事気にしないでいいんだよ。なまえちゃんが楽しそうに話してくれると俺も楽しいからさ。ほら座ってて」

自分だけ座っているなんて、と思いながらもサンジくんは手慣れた様子で1人でテキパキと朝食の準備を終わらせていく。そんなサンジくんに私は惚けていたのかそのまま立ち上がれずにいた。(エプロンつけた姿も様になってるしコックなだけあって手際も良すぎて…)

「…サンジくんて、いいお嫁さんになれそう」
「はは、それは参ったな」
「!あ、いやつい心の声が…」

完全にサンジくんに見惚れていた私はボーッとしながら考えていた事を、いつの間にか口に出してしまっていた。そんな私にサンジくんは声を出して笑うと私に優しく微笑んだ。


「出来れば、旦那さんが良いんだけど」


「えっ……あ!そうだよね!男性なんだからそりゃあそうだよね…」

一瞬、私に言われたみたいで。いや、実際話してるのは私にだけれどもそういう意味じゃなくて。(び、びっくりした…私の…かと思っちゃった。なんて恥ずかしい奴なんだ)何だか自意識過剰になったようで酷く顔が熱くなるのがわかった。そんな私をサンジくんはまた優しく微笑みながら眺め、料理を全て並べ終えていた。

「そろそろ皆起きてくる頃だね」
「あ…もうこんな時間」

サンジくんにそう言われ、時計に目をやるとぞろぞろと皆がキッチンに集まる時間になっていた。何だかサンジくんと2人きりの時間がまるで一瞬だったかのようなそんな感覚を感じながら少し残念な気持ちが込み上げてくる。(幸せな時間もあっという間だったな…)せっかく早起きして2人きりになったというのに、何の進展もない世間話をしてしまった自分に自己嫌悪する。それと同時に、キッチンから少し離れた場所で声がしたのを耳にすると本当に、2人きりの時間が終わってしまったと実感した。


「なまえちゃん」

話し声が、キッチンのすぐ側に近づいてきた頃、サンジくんが私を呼んだ。サンジくんを見やると手招きで私を呼び寄せる。よくわからないまま私は恥ずかしいながらも、サンジくんの言う通りに近くへ顔を寄せると耳元で今度は小さく囁かれた。


「明日からも毎朝来てくれると嬉しいんだけど」


きっといつもの声色なのだけれど、私には酷く甘いような、溶けてしまうようなそんな声色で優しく囁かれ、もう思考回路はショート寸前だった。




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