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小さな街の小さな宿で私は働いている。この街のシンボルである大きな噴水は外壁が透明なガラスで造られており、澄んだ水が反射する様はとても幻想的だと観光地になっていた。その為、小さな宿ではあるが観光客の宿泊地として閑古鳥が鳴かない程度に繁盛していた。

ある時、1ヶ月程滞在したいとやってきたのは綺麗なブロンドの髪を三つ編みにしていて赤いマントを羽織り割と背が低い少年と全身に鎧を纏った何とも少し変わった人だった。
そんな二人組はここアメストリスでは大層名が通った国家錬金術師なのだとか。錬金術だとか国家だとかにさして興味のない私にとっては左から右に流れるような話だ。(平々凡々な私にとって縁のないものだ)


翌日、私はいつものように朝食の要望がある部屋へと次々に訪れていた。最後の部屋だと扉の前に立つと部屋からは言い合いをしているような声が漏れてきた。ふ、と部屋番号を見れば少し前にやってきたあの国家錬金術師の二人組の部屋だと思い出す。(喧嘩してて錬金術繰り出してたらどうしよう)
私は少し気を重くしたが朝食を運ぶという仕事がある為に避けられない状況をため息で掻き消し、声が漏れる扉を静かにノックした。

「すいません、朝食を…」
「おめーが昨日変な武器使って振り回さなきゃこんな事に!」
「兄さんだって腕が壊れるような乱暴な戦い方するから!」
「あ、あのー…」

恐る恐る扉を開けると私に気付いていない二人は先ほど漏れていた言い合いを部屋に入った事で鮮明に聞こえる程の声量で続けていた。更に、喧嘩のせいなのか三つ編みの(今は髪をおろしている)少年の右腕は無く、鎧の人に至っては首がない。錬金術は放っていないにも何とも恐ろしい光景に私はすぐさま部屋を出たくなった。とりあえず朝食だけ置いて出ようと声をかけても未だに気付かない二人に私はもう一度と小さく声を発した。すると、やっと聞こえたのか二人が一斉にしてこちらへ振り向いた。



「ごめんなさい騒がしくて。兄さんがどうしようもなくて」
「だからあれはおめーが」
「ふふ、国家錬金術師ってお堅い名前だから飄々としているかと思ったら私みたいな年代と然程変わらないんですね」

私にやっと気づいた二人は何故か少年であるエドワードさんの三つ編みを結ってくれとお願いされた。状況がわからない私は言われた通りに三つ編みを結いながら鎧を纏っているアルフォンスさんから状況を聞いた。
なんでも、昨日錬金術師同士で戦った際にエドワードさんの右腕である機械鎧が壊れ、三つ編みが結えない為、アルフォンスさんにお願いしたが思った以上に下手だった事から言い合いが始まったのだとか。内容が内容ではあるが間近で言い合う二人は年相応な素振りを見せており何だか親近感が湧いた。思わず笑いを零した私は三つ編みを完成させるとキュッと髪をゴムで縛りそっと手を離した。

「はい、出来ましたよ」
「お、サンキュー。綺麗だなー」
「ほんとだ。ねえ兄さん。機械鎧が治るまではなまえさんにお願いしたら?」
「そうだな。頼めるか?」
「ええ、私なんかで良ければ」

年が近いせいか話が弾み楽しいと感じたこの一時がまたあるのであれば、と私は快く頷いた。そうして、私はエドワードさん達が宿泊する1ヶ月程、三つ編みを結う事が日課になった。



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