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「隼人ー!早く起きないと置いていくよー!」

聞きたくない声が頭に響く。




みんみん、と蝉が泣き喚く季節。

窓の外から俺の愛した女が叫ぶ。前なら張り切って起き上がって顔洗って歯磨いて服着替えてご飯食べて学校に向かっていた。なのに、今は何もしたくねえ。

アイツに、なまえに会いたくねえ。






数ヵ月前、俺は見た。
夜中にコンビニに行っておでん買ってなまえん家に行こうと思って足を進めていると、なまえが知らない男といた。



"ありえない"



自分にそう言い聞かせてゆっくりと足取りを進めた。なまえ(に似てるだけ、それだけの女)の後を追いかけると、そいつは俺が今向かっていた、なまえの家へと入って行った。

ああ、夢じゃない。

俺は手に持っていたおでんを落とした。べちゃ、と汚え音を立てて落ちたおでんはぐやぐちゃだった。






俗に言う、浮気か。





その日から何も信じられなくなった。浮気を知った後もいつも通り接してくるなまえに嫌気もさしていた。

いつからだ?いつから浮気しているんだ?いつから俺に作り笑いしているんだ?いや…最初からか?いや…俺が、浮気相手?






"絶望" "悪寒" "殺意"

俺の頭の中で過る言葉。








「…もう」

小さくため息をついたなまえの声が聞こえた。そして漕ぎ出したペダルの音。それと同時に俺はベッドの上で仰向けになる。天井を見つめたまま、動けねえ。ふいに視界がぼやける。それが涙だとわかると小さく笑った。

「…は。いつの間にこんなに壊れやがったんだ、俺は」









俺がこんなに壊れても、お前は何も思わない。殺意を持っても、お前は何も思わない。逃げればいいだけだ。


いや、逃げられないようにすればいい?




そう、逃げられないようにして、苦しんで詫びて狂いに狂って泣いて泣いて泣き叫べばいい。




喚け。






お前もさっさと壊れちまえばいい。




120423
復活にて獄寺氏



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