似た者同士の喧々劇 | ナノ


「おはようございます」

いつもの朝、今日一番はじめにやってきたのは六年生の深緑色の装束を着た食満くんだった。

「あら、食満くん。今日は一段と早いのねえ」
「ええ、さっきまで自主トレをしていたもので」
「おはよう、食満くん」
「おはようございます、名前さん」

鋭い目つきで私を見る食満くんは意外にも柔らかい笑みでニッコリと笑う。

「ごめん、まだ朝食出来てなくて」
「ああ、いえ気になさらないで下さい。私が早く来すぎただけですから。ただ、差し出がましい様なんですが、お茶だけ頂けますか?」
「うん。ちょっと待っててね」
「すみません」

見ているこっちまでピシッと背筋が伸びてしまう様な、非常に丁寧な態度の食満くんは何とも爽やかな好青年だ。そんな食満くんに朝から気分が良くなれば、不意に朝に似つかわしくない目の下にどっさり隈を拵えた嫌な奴の顔が頭に浮かんで一気に気分を害されてしまう。くそ、何で思い出してしまったんだ。そう考えながらも、私には理由は分かっていた。

「食満くんは、こんなに礼儀正しいのに、あんな文句垂れの失礼な男と犬猿の仲だとか言われて、可哀想に。納得行かないわ」

お茶を湯呑みに入れてカウンター越しに食満くんに渡せば、食満くんは相変わらず礼儀正しくお礼を言うと、眉を下げて笑った。

「まあ、お互いに突っかかってしまうのが原因ですから、一概にあいつだけが悪い訳では無いんです。そりゃあ似た者同士だとか陰で言われてる事については、私も納得行きませんが」
「似てる訳ないない!あんな不気味な隈耕してる老け顔の奴と、朝から爽やかな笑顔で挨拶する食満くんじゃ天と地の差だよ!」
「ははは、ありがとうございます」

力説する私に食満くんは再びニッコリと笑うと湯呑みに口をつけて喉を鳴らした。潮江と食満くんの何処が似てると言うんだ。実際に二人の言い合いはまだお目にかかった事は無いが、口を開けば文句しか垂れない失礼極まりない潮江と、私の出す料理に一切の文句を言わずに其れだけで無く「ありがとうございます」といつも爽やかに感謝を述べてくれる食満くん。似ても似つかない。


「それにしても、いつもこんな見た目の料理じゃ食欲無くなっちゃうでしょう?」
「ちょっと。母さん」
「本当の事じゃないの。全く、いつになったら上達するのかしらねえ…」
「く…!」

漸く朝食の支度も終わり、本日最初の朝食を食満くんへと配膳すれば母は食満くんへとごめんね、と苦笑する。毎度毎度娘の失態に謝る位なら別の人に頼めばいいじゃん!と内心思いながらも、己の上達皆無である不器用さと、引き受けてしまった以上最後まで責任を持ってやってやると言う意地で口には出さずにいた。だが食満くんは「そんな滅相も無いですよ」と母の言葉を否定して、続け様に言葉を発する。

「見た目に関しては然程気にしていませんし、名前さんの質素な味付けも私は好きですから」
「け、食満くん……!」

何という事だ。働き始めてこんなに褒められ(?)たのは初めてで、思わずじーんと感動する。堪らず、食満くんの両手を握って持ち上げると涙ぐんで食満くんに感謝した。神様仏様食満様。

「ありがとう食満くん!」
「(う、近い…!)い、いえそんな…」

少しばかり頬が赤くなった食満くんに気付く余裕も無く喜びに浸っていると、食堂に新たな足音が入ってきたのを耳にすると、振り向きざまに挨拶を繰り出した。

「おはようござ……」

だが、その言葉は虚しくも最後まで言い終わらぬ内に途切れてしまう。


「イチャついてる暇があるならさっさと飯を出せ、バカタレ」
「…はあ」
「おい、人の顔見て早々溜息吐くんじゃねえ。朝っぱらから喧嘩売ってるのか」
「喧嘩売ってるのはお前だろ、文次郎」
「ああ?何だ留三郎」

折角食満くんのお陰で気分は上々だったと言うのに、本日二人目の利用者のせいで台無しだ。私は先程まで頭に思い浮かべていた以上に隈が濃く刻まれている潮江を見るや否や溜息を吐いた。そんな私に反応した潮江が言い返してくると、何故か食満くんが食い下がり始めた。


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