似た者同士の喧々劇 | ナノ


「あっちょっと何勝手に入ってきてんのよ」
「会計委員の夜食の下準備だ。以前から食堂のおばちゃんには許可は貰っている」
「会計委員…?」

潮江は私を見る事なく、制服である忍装束の袖を肘まで捲り上げると予め脇に抱えて持って来ていたのであろう桶の水で手を洗い始める。私が聞き慣れない言葉に首を傾げれば、ぶっきら棒にも口を開く。

「学園での所属委員会だ」
「…ああ、なるほど。予算の管理だとかしてる感じの委員会って訳ね」
「そうだ」
「…でも、夜食を食べる時間まで委員会なんて、何やってるの?」
「主に帳簿付けだが、合間に鍛錬も怠らない」
「ふうん…ああ、だからそんな不気味な隈つくってるんだ」
「不気味は余計だ!」

潮江は言い返す合間にも、テキパキと釜で米を炊く様は無駄がなく何とも手際が良い。私だって米を炊くぐらいは出来る…が、こいつの様に手慣れたものではない。それ故に悔しさが込み上げてくる。潮江のくせに!ぐぬぬ…と悔しさを込めて潮江を睨めば、かまどに火をつけて釜を見遣る横顔に思わずドキッとした。は…何だ今のは。釜を見つめる潮江がやけに真剣で何故だか戸惑ってしまう。こいつ、黙っていれば、あと隈も無ければ、ちょっと格好いいんじゃないか。ちょっとね、ちょっと。なんて急にどうでもいい事が頭に浮かんできてしまう。

「……」

すると、不意に潮江が釜から顔を逸らすと、後ろに並べられていた小皿に無残に盛られていたペースト状の味噌じゃがを指で掬って一口食べた。

「あ!ちょっと何つまみ食いしてんの!?」
「バカタレ、毒味だ。いきなり下級生が食べて倒れでもしたらどうする。…味に関しては、食べれん事は無いな」
「どっ…!?ちゃんと自分で味見してるんだからそんな事ある訳ないでしょ!」
「どうだか。こんな見た目の料理作る奴の味覚なんざアテにならんだろう」
「あーもう!ああ言えばこう言う!あんた本当に憎たらしい奴ね!そんな文句ばっか言うんなら、今日の夕食はあんただけ無しね!」
「俺は事実を述べたまでだ!それに学園の生徒である以上、食堂のご飯を食べる権利はある筈だ!」
「作ってる人への礼儀がまるでなってないんだから、私にはあんたのご飯を作る義理は無い!少しは笑顔で元気に挨拶出来る下級生を見習ったら?まっ潮江が元気に挨拶してくるとか御免だけどね!」
「な…!っお前こそ俺の器用さを見習って少しは盛り付け方を勉強しろ!あー、でもお前には俺みたいに器用には出来ねえか、悪い」
「は!?何で私があんたを見習わなくちゃいけないのよ!と言うか、潮江が器用とか本当気持ち悪い!」
「っお前な…!貸せ!俺が盛り付けて見本を見せてやる!」
「嫌よ!貸さないし見ない!」
「見ろ!」
「見ない!」
「見ろ!」
「見ない!」
「見ろおお!」
「見ないいい!」


「ちょっと二人とも!火!火!」


「「あ゛!?」」
「だから!火だってば!」

二人で菜箸を奪い合っていれば、突如カウンターの向こう側から小松田さんの慌てた声が聞こえてきて、潮江と二人して邪魔するなと言った声色で小松田さんを見れば、必死に竃の方を指差しているもんだから、私達は一斉に竃に目を向けた。

「「ああー!!」」

するとそこには、私の煮込んでいた鍋、潮江が焚いていた釜からもくもくと濃い煙が立ち上っているのを確認すると私達は急いで火を止め、何とか大事に至る事はなかった。


だが。

「全く!何で貴方達はそう顔を合わせれば言い合いするの!!」

「でも母さんっこいつが…!」
「いえ元はと言えば娘さんが…!」
「言い訳しない!!」
「すっすみません…!」
「…すみませんでした」

町から帰ってくるなり、その騒動を聞いた母は頭から火を吹かせて私と潮江に正座させると長い長い説教を続かせた。

ちょっとでも格好いいなんて思った自分が馬鹿だった!潮江とは一生分かり合えないと心に刻めば、隣で私と共に説教されながらも、睨んできた潮江を睨み返した。

「「ふん!」」
「あんた達聞いてるの!?」
「「は、はい!!」」


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