似た者同士の喧々劇 | ナノ


「今日は付き合ってくれた上に、御馳走までしてくれてありがとう」
「なに、私が勝手に付いて行っただけだ。馳走はそのお詫びだと思ってくれ」
「ふふ…、相変わらず男前だね。利吉は」
「ははは、君に褒められて何よりだ。それじゃあ、私はこれで」

日の暮れる手前、夕食の準備も兼ねて急いで忍術学園へと戻ってきた私は利吉との別れ際に、名残惜しく話を交えた。昔と変わらない爽やかな笑顔を見せた利吉は話を切り終えると片手を振り上げ背を向けて歩みを進めた。


「…利吉っ」

そんな利吉の背中に向かって私が声を張り上げると、利吉は体を捻り振り向いた。

「また、会いに来てね」
「!…ああ、勿論。少なくとも、君が学園にいる間は父上への用事で頻繁に来て会うだろうね」
「来た時は絶対に食堂寄ってよね!」
「ああ」

そうして、再びにっこりと笑うと背を向けて去って行った利吉を、暫し見届けると私はふう、と息を吐き学園の扉を潜り抜けた。それにすぐさま反応を見せた小松田さんが駆け寄ってきて入門表にサインを促されながら、久し振りに旧友との再会を果たし昔話に花を咲かせた事で感慨に耽る事もあったが、途轍もなく充実した時間だったと思い出した私は、筆を走らせながら思わず口端を吊り上げた。


「おい」
「ん?…うわ、潮江じゃない」

サインを終えて私が食堂へと向かおうと歩みを進めるや否や、少し離れた場所から声を掛けられ顔を上げると、そこには潮江が腕を組みいつもの様な険しい顔で私を見つめていた。

「うわ、とは何だ。あと一刻もせん内に夕食の時間じゃ無いのか。準備もせず何処ほっつき歩いてやがったんだ」
「あんたは私のおかんか」
「喧しい。誰がお前の母親になるか」
「ああ、ごめん。くそ親父だった」
「バカタレ!お前が出掛けちまってたら食堂のおばちゃんが困るだろうがと言ってんだ!」
「お生憎様。その食堂のおばちゃんから許可を得て町に行ってたんですう」
「…町に?買い出しか?」
「違うわよ。勉強してこいって言われたのよ」
「勉強?」

ひたすら首を傾げる潮江に、何でこんな所で天敵である潮江と普通に話しているんだと頭では考えながらも、先程の利吉との楽しかった時間を思い出せば機嫌を取り戻し、今日くらいはいいか、と思いふふん、と鼻を鳴らして笑った。

「出された料理の絵まで描いて(とても見せられたもんじゃないけど)頭に入れてきたんだから、今日の夕食は嘸かし期待してなさい。潮江くん?」
「…はあ?」

何言ってんだ、こいつ。みたいな顔で見られたが、機嫌の良い私は動じる事無く、軽い足取りを再び進めて今度こそ食堂へと向かった。



「…何でなの……」


「バカタレ。たった一回スケッチしてきたからと言ってそんな簡単に真似出来る訳ねえだろ。何事も日々の積み重ねが大事なんだよ」
「潮江くんの言う通りね。これからも時間を見つけて町に出てコツコツ勉強してきなさい」

息巻いたものの、いつも通りの悲惨な出来栄えに肩を落とす中、私の後に付いて食堂までやってきていた潮江と、潮江に細かい事情を説明した母は共に私に厳しい言葉を浴びせてきた。だから、あんた達は私のおかんか…!って一人は本物のおかんだわ。

「…はあ」

まだまだ道のりは長い。


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