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私は知っている。

「ナミさーん!ロビンちゃーん!ご飯出来たよー!ほら、お前は早く食器並べるの手伝え」
「…はいはい」

世の中のレディにとても優しいサンジが、私にだけは優しくない理由を。


「なあ、何でサンジはお前にだけ優しくないんだ?」
「急にどうしたの?チョッパー」
「だってお前もナミとロビンと同じ女なのに、まるで扱いが違うっていうか…」
「まあ、同じ女でも雲泥の差だけどね。ナミは航海士でロビンは考古学者。知的と魅力が溢れる役割なのに、私ときたら船大工だし?にひひっ」
「そうだけど…」

生まれてからずっと父が船の直す姿を見ていた私は、流石の血筋というか、当たり前というか、女でありながら船大工として生きてきた。
身なりなんか気にした事はなく、いつも作業着で髪もゴムで適当に一纏め。(船が直せれば何でもいい)そんな私に周りの男達は他の女性と接する時よりもフランクだったのは昔から致し方のない事だった。(別にそれが嫌な訳でもなかったし)
それは勿論、小さい頃に出会ったサンジにも言える事。
女として見られていない事は大前提であったが、それ以上の信頼感を持っているからこそ、私にはそれが何の問題だとも思っていない。

(…まあ、色々考えた事もあったけど)
けれども、やはり私も人間に、女に生まれたからには、一度は通る恋という感情に悩まされた事もあった。
歳も近く、楽しいと思える人を好きになってしまうのは仕方ない事。(向こうは…サンジは全然気付く事も、振り向く事もしてくれなかったけど)だが、それは決して叶うものでは無く、サンジが私ではない、「レディ」に接する姿を見てきっぱりと忘れ去る事にした。

「それに、私はどんな船でも直してみせるのが命よりも大事だって思う人間だから、私は皆から女として扱ってもらいたいとか思ってないし、別に気にしてないよ」
「でも、その…俺が言いたかったのは…」


「おーい、ちょっと夕飯の準備手伝ってくれ」


「あ、もうそんな時間?おっけー。ごめんチョッパー、行ってくるね」
「お、おう」

チョッパーが何か言いかけていたが、その言葉はキッチンから叫ばれたサンジの声にかき消され、私の耳には入る事なく、どっこいしょ、と甲板から立ち上がるとキッチンへと向かった。




「んーいい匂い!」
「いいから早くこっち来て味見してくれ」

少し開きかけていたキッチンの扉を開けるとたちまちそこには美味しそうな匂いが充満していた。
船の部品に夢中だった私も、匂いを嗅いですっかりお腹が食べ物を欲していた。

「今まで散々味見してきたけどさー、サンジが失敗した事なんて一度も無いんだから大丈夫だってのに」
「いいんだよ。コックにとって料理の失敗は絶対に出来ねえ。だから、万全の態勢を整える。それがコックってもんだろ?」
「それって私には失敗した料理を食べさせてもいいって事かい兄さん」
「お前は俺のアシスタントみてーなもんだろ?つべこべ言わずにほら」
「はいはい…んー!うま!!」
「だろ?昨日の夜からじっくり煮込んだ自慢のビーフシチューだ」
「最高です!」
「よし。じゃ食器並べて皆を呼んできてくれ」
「あいあいさー!」

一口、ビーフシチューを口にした私の脳は、もっと食べたいと言わんばかりの欲求に急かされ、急いで食器をテーブルへと並べ始めた。

恋は叶う事は二度と無いが、サンジに信頼されて近くにいれる事が何よりも幸せだと感じる。
それだけで十分な私には、やはり「レディ」として扱われない事などもはや何の問題でも無かった。



*****

その頃、キッチンの扉の向こうにはそっと中を覗くチョッパーが居たが私は気付く事なく夕飯の準備を進めていた。

「…俺、いつも思うんだけどさ、サンジって味見してもらう前に自分で味見してないか?たまに見かけるんだ」

そして、すぐそばでみかん畑の手入れをしていたナミへと問い掛けるとナミは「バカねえ」と鼻で笑った。

「サンジくんが味見して欲しいって言うのは、あの子に誰よりも一番初めに食べてもらいただけなのよ」
「…やっぱりそうだよな」
「ま、あの様子じゃあの子はサンジくんの態度にまるで気付いていないし、サンジくんもサンジくんでそういう所不器用だから、これからも先は長そうね」
「…(人間って複雑なんだなあ)」


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