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ああ、もう限界だ。


地獄の会計委員長のいつもの計らい(虐げ)で、裏々々山では会計委員会の鍛錬を行なっていた。
行きには地に足をつかす事なく、木々を飛び移り。山頂までやってこれば、帰りは全力疾走。

「一旦休憩するか」

山頂までもう暫くかかると踏んだ潮江先輩が、ふと言葉を私達に投げた。佐吉も団蔵も左門も三木ヱ門も素直に返事を返し、最後に飛び移った木の上に座り込み持参していたおにぎりの包みを広げた。皆と同様に、私も早く昼食を取って体力を回復させようと半ば急ぎ気味に飛び移っていた木に目掛けて足を先走らせれば、着地する寸前で木に強く打ち付けた。
(い゛!!)
更にその上、体幹を崩したが何とか木の枝に着地すれば力の抜けた足をぐにゃりと変な角度に捻った。
(あ゛あ゛!?)

「?先輩、今すっごい変な顔してませんでした?」
「そっそう?休憩に喜んで思わず顔に出たのかも」
「明らかに何か絶望した様な顔でしたけど…」
「え!?あっああ、じゃああれだ。伊作先輩が今頃落とし穴に落ちて、尚且つ今日は水攻めにでも合ってるんだろうなって哀れんでたのが顔に出たんだろうね」
「…落ちてるの前提なんですね(そもそも、この人よく綾部と一緒になって伊作先輩落としてなかったっけ。…水攻めと知ってる辺り今日も手伝ったな)」
「フン。今更あいつの不運を気にしても仕方ないだろう。そもそも忍の三病に違反している。あまつさえ鍛錬中に思案をする等以ての外だ」
「はい!すみませんでした!今後二度と伊作先輩の心配はいたしません!」
「あ、ああ…(何か、伊作に悪い事した気が)」

下級生もいる手前、五年生の私が情けない声など出せる訳も無く、何とか悲痛な叫びが喉から飛び出す事は無かった。悲痛に耐える形相も何とか(?)誤魔化した。話をしながらそそくさ平静を装い座り込むが、激痛が続く足は泣き止まない。最悪だ。これからまだ山頂までの木々を飛び渡り、帰りはおもっくそ地面に足を擦り付けて全力疾走だと言うのに。
(でも…下級生に余計な心配は掛けたくないし)只でさえ、女の私は足手纏いになる事が多い。私が尊敬し憧れる委員長の潮江先輩にも知られてしまえば、きっと呆れられるだろう。


「さて、そろそろ再開するぞ」
「「「「はい!」」」」
「あ、あい…(ええい、足千切れてでも完走してやる!伊作先輩、今日の落とし穴は私も手伝いましたが、心の中で謝っておきますので帰ったら手当てお願いします!)」

潮江先輩が地獄の門を開くかの様な言葉を私達に告げれば、私はじくじく痛む足をやけくそになって動かした。なんてこった。今までの地獄が最も軽い等活地獄だった様に思えたぜ。


「よし、到着だ。お前らよくやったな。だが、まだ帰りが残っている。気をぬくな」
「「「「は、はい…」」」」
「…(やばい)」

ああ、もう限界だ。

こうして冒頭に戻った私は、行きの距離の長さを推定して帰りの絶望に陥ってしまう。やけくそという痩せ我慢もそろそろ限界がやってきていた。否、やってきた。出来るだけ体重をかけまいとしていたが、どうにも飛び移るには満遍なくバランスが必要になる訳で。痛めた足一点に体重を何度も乗せていれば、本当に足が千切れてどっかに落としてきたんじゃないかと思う位に痛みが襲いかかる。既に立っているだけでも、叫んでしまいそうだった私は思わず地面に手をついて項垂れた。

「…えっ先輩!凄い汗ですよ!?」
「ぅええ?…あはは、ちょ、ちょっと思った以上に疲れたみたい…。し、潮江先輩すみません…少し、ほんの少し休憩したら、追いつきますので、どうか、今日だけはどうかお先に…お帰り下さい」

きっと怒鳴られる。
だがそんな悠長な事は言ってられない。このままではあまりの痛みに気絶してしまいそうだ。土下座する勢いで潮江先輩へと頼み込めば、すぐそばに居た潮江先輩は私の頭上で小さく溜息を吐いた。

「ったく、仕様がねえな。お前ら、先に帰っておけ」

だが、思わぬ言葉にガバッと顔を上げた。

「!い、いえ下級生たちが道に迷ったりしたら心配ですし」
「お前が口出しするんじゃねえ」
「へ、へい…」
「下級生は三木ヱ門がいるから大丈夫だろ」
「はい。お任せ下さい」
「じゃあ、気をつけて帰れよ」
「「「「はい」」」」

相変わらずの素直な返事が聞こえると、一気に気配が少なくなった。


「……」

項垂れたままの私は四つん這いで三木ヱ門達が帰っていった方向を見送っていた潮江先輩の背中を恐々と見つめていた。あああ、どやされる。

「おい」
「はいいい!た、鍛錬不足で申し訳ございませんんん!!学園に帰りましたら腕立て千回と腹筋千回を2セットずつ…!」


「バカタレ。足を見せろ」


「……へ」

思わぬ言葉に声が裏返ってしまった。潮江先輩は私の目線に合う様にしゃがみ込むと痛くも痒くも無い拳骨を私に降り注ぐ。

「休憩入る時に捻ったんだろう。ったく、いくら下級生に心配かけたくねえからってな…」
「すみません…」
「…ま、お前にしちゃよく頑張ったじゃないか」
「!し、潮江先輩…」

降り下ろされた拳骨はそのまま私の頭で広げられわしゃわしゃと頭を撫で回した。淀みない笑顔を向けられれば涙がじわりと滲む。

「だが、今後もし怪我をした場合は無理するな。後々響いて取り返しのつかない事になるぞ」
「…はい。すみませんでした」
「よし。さあ乗れ」
「……へ」

さあ一件落着だ、と潮江先輩は私に背を向けて言葉を放った。乗るってどこに?

「その足引きずって自力で帰るつもりか?日を跨ぐぞ」
「いっいえでも!潮江先輩にその!お、負ぶっても、もらうなんて…!」
「いいから早く乗れ!」
「う…」

まるで私の心の中を読まれた様な潮江先輩は、痺れを切らしながら促した。確かにこのままでは学園に戻るにはかなり時間がかかってしまう。そして背中からも分かる程の威圧感に、私に選択の余地は無く、大人しく潮江先輩の背中に身を任せた。大きくて暖かい、憧れの潮江先輩の背中。

「しっかり掴まってろよ」
「は、はいっ」

ぎゅっとしがみ付けば、より一層に心臓が速くなった気がする。これは、果たして恥ずかしさからなのか、それとも。


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