Change the Body!! | ナノ


「あはは、どうしようか……」
「どうもこうも…伊作が落とし穴なんかに落ちるから…!」
「と、とりあえず一旦落ち着こうよなまえ」
「私はいつでも落ち着いてる!!」
「そ、そっか…(こんな形相で怒ってる僕って結構珍しいよなあ…)」

伊作の考えている事は何となくわかった。私も同様に、こんなに眉尻を下げて困った様に笑う顔なんて滅多にしないのだから。

今日も今日とて伊作が落とし穴に落ちた。そんなのは日常茶飯事で放っておいても、少ししたら同室の留三郎が助けに来るだろうし、くのたまの私には関係無い。だが、たまに気まぐれで助ける位の特別仲が良いとは言えない微妙な立ち位置。まあそんな事は今はどうでもいい。気まぐれで助けるんじゃ無かった。

「すまない、なまえ。僕がいつもの不運で落とし穴に落ちたばっかりに助けてくれようとした君まで引きずり下ろした挙句、頭同士をぶつけて入れ替わってしまったなんて」
「…私の真顔で説明口調に話されると何だかゾッとするわ……。とりあえず、此処から出て部屋で今後の事をじっくり話す方がいいわ」
「そうだね」

いつまでも落とし穴の中で悩んでいても仕様がない。はあ、と溜息を吐いたのを皮切りに私は装束に忍ばせていた苦無を取り出して穴を上がる。私の姿をした伊作も穴から這い出て、医務室へ向かおうと決め足を進めていれば、私はある事を懸念した。

どちらが…どうなっているのか、と言う事を。


「ねえ、伊作」

歩みを止めずに背後をついて歩く伊作に声を掛ければ「なに?」と返ってくる。自分じゃ無い声で他人を呼んで返ってくる自分の声に何だか混乱してくる。

「…あんたはどっちがどうだと思う?」
「…どっちがどうって?」

顔は見ていないが、おそらく首を傾げた伊作に不意に振り返った。

「だから、あんたと私のどっちに不運がっ――」


ぐらっ


「え」
「なまえ!?」

ほんの僅かの余所見をしただけだと言うのに、不意に足元が不安定に崩れた。まさか、そんな…!


ドシャッ!


「なまえ!大丈夫かい!?あああっ僕と入れ替わったばっかりに、不運体質になってしまうなんて…!」
「…大丈夫、そんな気がしてたから、大丈夫」

落とし穴に落ちたとわかった途端に、再び訪れた絶望感。入れ替わった上に、不運は私が受け継いだ…否、伊作の不運は体に残ったままだった。何なの?不運って元はと言えば伊作の不注意から巻き起こってる感じじゃなかったんだ?それならごめん。今まで実はそうなんだろって馬鹿にしてたわ。謝るわ。


「おーい、なまえ。そんな所で何してんだ…って伊作!また今日も懲りずに落ちたのかよ」
「留三郎…(今の僕はなまえなんだけどね)」
「留三郎…」


その時、タイミング良く現れた留三郎が穴を覗き込んで伊作である私を見て困った様に笑った。どきん!…え、何今の。

「ったく、なまえも相変わらず冷てえ奴だな。んな所で見てねえで助けてやれよ」
「え、あっああ、ごめんごめん。いつも助けてもらう側だからつい君を待っちゃって」
「は?」
「(はっ!今僕なまえなんだった!)あー!いや、えっと!留三郎に助けてもらってる伊作を嘲笑いたくて待ってたのよ!」
「…お前、どんだけ性根腐ってんだよ…ったく」

おい、伊作。私はそこまで意地悪じゃないぞ。いや、もしかしたらいつも伊作は自分を素通りする私にそんな事を思っていたのかも知れない。まじごめん。少し今までの自分の伊作への対応を省みていると、留三郎が「ほら」と私に手を差し伸べた。

「掴まれよ」
「え…あっああ、あり、がとう」

伊作にとってはいつもの事だが、私にとっては留三郎に助けられるなんて初めての事でつい驚いて動けずにいた。慌てて伸ばされた手に掴まれば一気に引き上げられた。うわっ留三郎って、結構力持ち…。

「あーあ、すっげえ泥だらけじゃねえか」
「っ!?」

そして手を離すや否や、留三郎は私の泥だらけになった姿を見て笑ったかと思えば軽く払ってくれる。そ、そこ胸ー!!なんて、今は伊作なのだから、胸を触られようが、留三郎からすれば気にする訳もなく、背中、お尻と大まかにパッパッと泥を払うと「よし」と満足げに笑った。

「とっ留三郎…お前、今…!(なまえの胸触った…!いや僕の胸なんだからセーフ…?いやいや気持ち的になまえは胸を触られたんだからアウト?うわああわかんない!)」
「何だよなまえ?…おい、何一人で百面相してんだよ。伊作、こいつ今日おかしくねえか…って、伊作?何で顔赤くしてんだ?」
「っと…」
「と?」


「留三郎のえっちー!!」


「なんでだ!!」

伊作の心中通り、体は伊作だが気持ち的には胸を触られた羞恥心に一気に恥ずかしさが込み上がってきて私は留三郎を思い切り殴ると(伊作ってば意外に力あったもんだから結構本気で殴っちゃったよ)居た堪れなくなり急いで医務室へと走り去っていった。

「あっなまえー!」
「…お、おい、なまえ…伊作は一体どうし「触るなあ!留三郎のばかー!!」なんでだよ!!」

そんな私を心配して追いかけようとした伊作の腕を握った留三郎に、伊作は私の体に触った事に過敏に反応すると、すっかりボロボロになった留三郎に追い討ちをかける様に思い切り殴り飛ばした。



不運大魔王と私が入れ替わったら



「何とか元に戻れたのね…。不運ばっかで体は伊作のだから痛みとかは無いけど、精神的にどっと疲れた…」
「あはは…体から痛みがじんじん伝わってくるよ…。でも、最初はちょっと色々あったけど、留三郎って凄く良い奴だっただろ?」
「!」
「僕が不運に見舞われると必ず留三郎が助けて……あれ?なまえ、顔赤いよ?どうし…はっ!ま、まさかなまえ、留三郎の事が…!」
「ううううるさい!!(だって伊作を助ける時の笑顔が滅茶苦茶素敵だったんだもの!)」



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