青春16切符 | ナノ


「…あれ?潮江先輩と、名字さん?まだいらしてたんですか」
「おう、兵助」
「…久々知先輩」

地獄の作業を初めて1時間くらい経った頃だろうか。突然、生徒会室の戸が開いたかと思えば大きな目をぱちくりさせて、長い睫毛をふわりと揺らした副会長、久々知先輩が私たちの所在を確認して驚いていた。

「実はかくかくしかじかでな…」
「うわ…小松田さんがそんな恐ろしい事を…」
「(今ので伝わった事が何より凄いわ)」

簡潔に話す(かくかくしかじかしか言ってない)潮江先輩に状況を理解した久々知先輩は、先程の私と同様に同情を目を向けると、潮江先輩へと歩み寄る。

「僕も手伝います」
「何を言う、兵助。お前が去年会計補佐だったからと言って甘える訳にはいかねえ」
「いえ、前期分の帳簿であれば、僕も携わっていましたし無関係という事はありません。それに、副会長というのは正直皆さんのフォローという役回りですから」

潮江先輩の遠慮する言葉に久々知先輩は真面目な受け答えをしながら、ニッコリと笑う。わあ絵に描いたような好青年…!

「…悪いな」

そんな久々知先輩に、二人の間柄、きっとこれ以上遠慮しても引かない事を知っているのか、潮江先輩はあっさり折れると、未だ手をつけていない帳簿を手渡した。

「まあ、今日は俺たちもあと30分くらいしか残れんだろうし、出来るとこまででいい」
「はい。任せて下さい」
「あ、ありがとうございます…」
「気にしないで。名字さんも、まだ生徒会に入ったばかりなのにごめんね」
「い、いいえ!久々知先輩が謝る事なんてこれっぽちもありません!」

潮江先輩の隣に座り、作業に取り組み始めた久々知先輩に私からもお礼を言えば、気にするなと爽やかな返しをしてくれた挙句、悲惨な事故に巻き込んだ事に対して何故か謝罪までしてくれた。な、なんて出来た好青年なんだ…!生徒会の中で一番接しやすい人かも知れない。そんな久々知先輩にあくまでも今までのやり取りを行いながらも勿論、手を動かしたまま心の中で感動していた私を余所に、廊下から慌ただしい足音が聞こえてくると、部屋の前でその音が止まったのが耳に入った。


ーバーンッ!

「大っ変遅くなり申し訳ありません!!」


「三木ヱ門!お前今まで何してた!?」
「みっ三木ヱ門んんん!!(貴様…!)」
「ああ、三木ヱ門も会計補佐だっけ」

先程のスマートに入ってきた久々知先輩とは打って変わり、それはもう開けた反動でまた閉まるんじゃないかと思う程に勢いよく開けられた戸の向こうには、私と潮江先輩が探し求めていた人物、田村三木ヱ門がよっぽど慌ててこちらに来たのか、物凄い汗を掻いて息を整えていた。

「せ、生徒会室に向かおうとしていたところ、七松先輩に掴まり今の今までバレーボールで虐げられまして…!」
「…小平太の奴…!!」
「(な、七松先輩って確か…)」

一発目の生徒会会議という名目で行われた自己紹介で体育委員会の活動内容を「基本はいけいけどんどんで活動している!」と意味不明な言葉で纏めた体育委員長だ。ていうか、バレーボールで虐げられるってどういう事だ。健全なスポーツだよね。私はその一文に凄く恐ろしさを感じてしまう。ねえ三木ヱ門、その腕の痣はなあに?まさか七松先輩って後輩いじめでもしてる感じなの?そんなやばい奴が委員長で大丈夫なの?
潮江先輩も三木ヱ門の言葉を聞けば、怒りの矛先が七松先輩へと向けられた。はあ、と深い溜息を吐いた潮江先輩は三木ヱ門に再び手をつけていない帳簿を手渡すと空いた席に座るよう促した。

「…仕方ない。今日は大目に見てやる。代わりに名字が手伝ってくれているし、兵助も来てくれた所だ。今日はあと数十分程だが、お前も帳簿の記入を急いでくれ」
「っわかりました!」
「あと、明日の放課後は名字に頼む予定だったが、今日の埋め合わせとして三木ヱ門に頼む」
「はい!」
「え、いえ、潮江先輩。私も明日やりますよ」
「気を遣わんでいい。元々は一日交代で頼むつもりだったのだ。今日お前は十分に働きを見せてくれている。だから明日は、」
「やらせてください。私も会計補佐ですし、最後まできっちりやらせて頂きます。それに三木ヱ門は中等部でも会計に携わっていましたが、私はまだまだ初心者なので今の内に勉強しておきたいんです」
「…そうか。すまんな(兵助が二人いるみたいだな)」
「名前…!」
「…へえ、名字さんて、面接の時は正直やる気なさそうで不安だったけど、伊作先輩が言ってた通り、きっちりしてて真面目なんだね」
「い、いやそういう訳でも無いんですけど…(純粋に真面目そうな久々知先輩に言われると照れるな…)」

私としては、面倒くさいと思ってる癖に、一度目についたら気になって仕方がない。そう、こういう所が良い所なのか、損しているのか。まあ、スキルアップに繋がれば今後の役に立つしいっか、と考えながら何にしろ今日の地獄を味わわせた三木ヱ門には後でアイスを奢ってもらおうと心の中で決めた。三木ヱ門も被害者だって?そんなものは知らん。



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