青春16切符 | ナノ


「さて、新しい生徒会役員も決まったところで早速、今期初めての生徒会会議を始める」


「…(どうして、こうなった)」


始業式からあっという間に季節は6月。
まだ高校生活が始まって2ヶ月しか経っていないと言うのに、私の心は既に暗いドン底に落ちていた。



*****

2ヶ月前。

始業式を終えた日以来、絶対に生徒会に入ってやるという友名前に、クラス発表で別々になったと言うのに、それはもう毎日しつこくしつこく一緒に生徒会やろうと立候補に誘われる日々をどうにかこうにか交わし続けてきた。

どうしてそうも嫌がるのか?と聞かれれば、単純に面倒くさそうだから。中等部で入っていた保健委員は、薬の在庫の管理や校医の先生がいない場合の保健室の番人などの仕事が主で(遭遇率の高いアクシデントで苦労は絶えなかったけど…)比較的他の委員よりも軽い活動内容ばかりであった。だからこそ、生徒会など以ての外、他の委員にも入るつもりはさらさら無かった訳だ。だが、立候補締切が近づいていたある日、とうとう彼女は最終手段だと言わんばかりに、私の恥ずかしい過去を皆にバラしてやるという何とも卑怯な手を使い、私は遂に折れてしまった。友名前は生徒会書記へ、私は生徒会会計へと立候補する事になった。

そして、立候補の締切となった5月下旬。まあ、友名前の言っていた通り生徒会への立候補者はかなりの人数で溢れ返り、生徒会顧問である安藤先生曰く、此れほどまでの立候補者は学園創立始まって以来だとか。それを聞いた私はホッと胸を撫で下ろす。それだけ競争率が高ければ万一にも私が生徒会になる事はないだろう、と。友名前はかなりの闘志を燃やしていたけど。

大抵の学校ならば、立候補者は全校生徒への演説をして生徒による選挙が行われる事が多いだろう。だが、うちの学園ではまず生徒会会長と副会長のみ全校生徒への選挙が行われ、会計長と書記長と庶務長は会長と副会長からの推薦による決定。そして以下役員は先日まで集われた立候補者を集団面接をして、会長と副会長の他にそれぞれの生徒会役員長が話し合って決めるというシステムらしい。

「ええ…それって、前期役員メンバーが【アイツは慕ってくれてたし今年もアイツがいい】なんて理由で贔屓されたりして有利なんじゃないんですか?安藤先生」
「ふむ、それは否めませんねえ。しかし、この制度は学園長が決めた事ですから」

私にご丁寧な説明をしてくれている安藤先生へ、割って意見を述べればそう返ってくる。確かに、この学園の長である学園長先生が決めた事には誰にも逆らえない。そう言えば以前私が中学2年生の時、まだ夏休みまで10日ほどあったにも関わらず、学園長先生が急遽今から終業式をして明日から夏休みにしよう!と朝の全校朝礼で言っていた事があり、本当に実現してしまったくらいだ。前々から思っていたけど、この学園大丈夫か…。

「ですが、まあ問題ありませんよ」

私がこの学園共々、生徒会って実は贔屓で集められた役員どもが好き勝手やっているだけの集団なんじゃないだろうか等想像して不安を抱いていれば、安藤先生が話を切り出した。

「うちの生徒会会長、副会長になる生徒には、学園長も教職員も皆信用を置いてますからね」

そして話を終えると安藤先生はふっふっふ、と不気味な笑いを零しながらその場を去っていった。安藤先生、今日は珍しく何も言ってこなかったがたまに出してくるオヤジギャグと嫌味さえ無ければ良い先生なんだけどなあ。あ、それもう安藤先生じゃないか。


「名前!私たちの番だよ!」
「え?うおっわかったわかった。今行くからそんな引っ張らないでよ!」

安藤先生が去っていく後ろ姿をぼーっと見ていれば、唐突に袖をグイッと引っ張られ友名前に呼ばれる。今日から3日間にかけて始まった生徒会立候補者の集団面接が私たちの番になり、私はやる気満々に目を輝かせて興奮気味の友名前をよそに、出来る限り目立たず、且つ「何だコイツやる気あるのか」と思わせるようにしようと心に決めて面接が行われる一室へと足を踏み入れた。


それから3日後。
無事全ての生徒会立候補者の集団面接が終わり、なんと翌日には既に生徒会役員当選者が発表されたポスターが、校内の掲示板へと貼り出されていた。面接を終えた私としては、どうせ落選しているだろうし今後生徒会などと堅苦しい役員とはもうおさらばだ、と他人事の様に思いながらも、ワクワクドキドキと体全面で表わす友名前に引っ張られながら掲示板へと向かった。奇跡にも近い当選者の名前が発表されたポスターを、他の生徒も見ようと群がるその中に私を連れて飛び込んだ友名前は、各役員の名前を目で辿っていたかと思えば、勢いよく私へと飛び付いた。くっ首が絞まる!

「あったあー!!あったあったあったあったあったあったあったあっ「うるっさい!ったく…ま、まじで?あんたみたいな生徒会に入る動機が不純でしかない奴が当選したなんて夢のまた夢のまた夢みたいだけど、まあ良かったじゃん。オメデトウ」
「最後すっごい気持ちこもってなかった気がするけど…まあいいわ!本っ当に嬉しい!!」
「今後はあんたと生徒会メンバーの交流自慢話を聞かされる日々が来るんじゃないかと思うと胃が痛いけど…。ま、あんたは無事当選したし、私はこれから地味な保健委員ライフを満喫すべく希望届を出しに行ってくるわ」
「は?何言ってんの」
「何が」
「名前にも生徒会での輝かしく素晴らしい栄光のライフが待ってるじゃない!」


「…は?」



*****

「では、最初はやはり自己紹介から始めるか。まあ、中等部からの顔馴染みの奴が殆どだが、より親睦を深めようじゃないか。大川学園高等部生徒会会長の三年一組、立花仙蔵だ。会長になったからにはより良い学園になる様精を尽くそう。よろしく頼む」
「副会長の二年一組、久々知兵助です。副会長として不甲斐ない事も多いと思いますが日々精進していきます。よろしくお願いします」

「会計長の三年一組、潮江文次郎だ。私がいるからにはギンギンに生徒会を引っ張ってってやろう!」
「書記長の二年一組、尾浜勘右衛門です。皆さん、今期も目一杯盛り上げていきましょう」
「庶務長の二年二組、鉢屋三郎です。まあ、新入生はあまり固くならずに頑張りましょう」

「庶務補佐の二年二組、鉢屋雷蔵です。庶務長の三郎とは双子です。なので庶務長のフォローは任せて下さい」
「同じく庶務補佐の一年三組、斎藤タカ丸です。二回留年してまた一年生です。よろしくお願いします」
「書記補佐の一年一組の綾部喜八郎でーす。何やかんや頑張りまーす。よろしくお願いしまーす」
「同じく書記補佐の一年一組、友名字友名前です!皆様方のお力になれる様精一っっっ杯頑張ります!よろしくお願いします!」
「会計補佐の一年二組、田村三木ヱ門です!よろしくお願いします!あ、コレは愛用の算盤のユリコです!」
「…同じく会計補佐の一年三組、名字名前です。よろしくお願いします…」

「?どうした、名字。お前だけ元気ないぞ。体調でも悪いのか?」
「い、いえ…何でもありません」
「(名前が立花先輩に話しかけられててずるい!!)」
「(友名前の目がうるさい…)」

そうして私は今、今期初めての生徒会会議に会計補佐として参加すべく、その場にいた。
私の脳内では、今でも鮮明に【生徒会役員発表!】とポップな字体のポスターに小さく書かれていたニッコリ笑う憎っくきウサギが忘れられずにいた。私の地味なライフを奪いおって何ニッコリ笑ってんだテメー、と何の悪気もなく笑うウサギに八つ当たりする私は、あの日からアイツ(ウサギ)を呪ってやると決めた。



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