青春16切符 | ナノ


残すところ、夏休みまでの委員会手の伝いはあと1日となった。今日は委員会活動最終日。そう、今学期最後を締めくくる一番大掛かりな日。

美化委員はその中でも一番の大仕事だ。

「よし、今日は委員会活動最終日だ。守一郎は中高の両体育館外周とその付近の確認を頼む。勘右衛門と三郎は中等部側の校舎。俺と名字は高等部側の校舎だ。問題がある点の中で、すぐに修補出来るものは後で纏めてするから、分かりやすくメモしといてくれ。いいな?」
「「「「はい」」」」
「ハードで申し訳ないが、活動時間内には終わらせる様に。だが合間に適度な休憩は挟むんだぞ。それじゃ、よろしく頼む」

美化委員長である食満先輩から的確な指示を貰うと、皆一斉に散って行った。

「まずは食堂側から確認するか」
「はい」

私も食満先輩の後を必死について歩き始める。



「あー、ここの壁ちょっと崩れてるな…後で直すか。名字、メモ取っておいてくれ」
「はい」

食満先輩が食堂付近をぐるりと見渡し、劣化確認を行なっていく。やはり美化委員長と行ったところか、不備に気付くのがいち早い。そして、こういった壁も美化委員で修補しているのかと思わず感心してしまう。そうこうしてる内に「よし、次だ」と歩みを進めると私は(え!もう!?)なんて思いながら書きかけのメモを急いで書き終えると何とか食満先輩の後を追った。


「花壇には特に異常無さそうだな……名字、やっぱり付いて来れてないんだろ?」
「あ、いえ…その、すみません…」

正直言って、戸惑った。次々に目につく箇所を言われて仕舞えば、手に持ったバインダーをぐるぐると見回して該当の場所のチェックをしていく。だが如何せん、6年間務めた美化委員長のスピードには付いていけない。何度か私を気遣って声を掛けてくれながら歩みを進めていた食満先輩に、手伝いに来た私が迷惑を掛けてはいけないと「大丈夫です」と貫いていたが、矢張り困惑している表情に気付いたのか、小さく溜息を吐くと眉を下げた。やっぱり、足手纏いになってるのだろうか…。
生徒会の手伝いと言っても、私が足を引っ張ってしまっては手伝いの意味が無い。恐らく以前から経験を積んでいる尾浜先輩や三郎先輩についてもらった方が格段とスムーズだっただろう。思うようにこなせない自分の情けなさに肩を落としてしまえば、食満先輩は「あー…」と小さく呟いた。

「丁度、喉も渇いたし休憩するか」
「…はい」


食満先輩に連れられ、中庭のベンチに腰掛ければ、ずいっと現れた目の前の何かに視界を遮られた。一体何だ、と焦点を当てれば、少し汗の掻いた缶ジュースを食満先輩に差し出されていた。

「あっ、すみません。お金…」
「気にするな。今日手伝ってるお礼の一部だと思ってくれればいい」
「…ありがとうございます」

一部って…。これ以上にもお礼をする気なのだろうか。それは後で全力で断るとして。そう言われてしまえば、ご厚意として素直に受け取るのが一番だろうと無造作にスカートのポケットに突っ込んだ手を取り出して缶ジュースを受け取った。そんな私に食満先輩は満足そうに笑うと、私の隣に同様に腰掛けた。

「悪かったな、慣れない作業なのに」
「いえ、そんな…美化委員会が今日一番大変な日なのに、一年の私が手伝いに来た事で逆に気を遣わせてしまいすみません…」
「そんな事ねえよ!こうやって手伝ってくれてるだけで凄え有り難いんだって。…ったく、伊作から話は聞いてたが、本当に自己犠牲な奴なんだな」
「え…?」

不意に言われた食満先輩の言葉の意味が分からず思わず聞き返してしまう。

「隠れ鬼ごっこの時に、うちの委員会のしんべヱが迷惑かけちまったらしいな。その節は本当に済まなかった。ありがとう」
「えっ!い、いえ!そんな、大した事じゃないんで頭を上げて下さい…!」

続け様に深々と頭を下げられてしまえば、私は慌てて頭を上げてくれと懇願する。すると、私の言葉にゆっくりと頭を上げた食満先輩の真剣な鋭い目が私を捉えて、思わずどきりと心臓が跳ねる。えっ感謝された筈なのに殺される…?

「今回は咄嗟の事だったし、仕方無かったかも知れねえが…お前も困った時は誰かに頼れよ」
「え…?」
「いくつか伊作から話を聞いてみたが、体調が悪くなった保健委員が居ればいつも日替わりの当番の交代してたみたいだな。テスト期間中でも、風邪引いた時でも。やるって言ったからには責任持ってやりますなんて気張って、その癖自分の当番の日も何が何でもこなしてたって。そういう性格が凄く心配だって漏らしてたぞ」
「い、伊作先輩が…」

確かに、保健委員の時はよく不運に見舞われて怪我をしたり体調不良になったりした委員の当番を交代していた。本当は面倒くさくて、自分から言い出さなかった為に、じゃんけんで負けてからはいちいちその度にじゃんけんして決めるのも面倒なのでずっと私が交代役を担っていたのだ。まさかそれについて心配されていたとは。別に、保健室の当番なんて殆ど包帯巻きしてるか椅子に座ってるだけでテスト期間中は勉強だって保健室でしていたし(風邪引いた時は流石にやばいかな、なんて思ったけど)心配する必要無かったんだけどなあ、なんて思っていれば、ふいに頭に温もりを感じた。


「責任感が強くて、自分がやりきろうと思う事は良い事だが、あんまり無理せずに、誰かに頼る事も大事だぞ。伊作にも、俺にも、な?」


「っ…ありがとうございます」

その温もりが食満先輩の手によって撫でられているものだと理解すれば、先輩の言葉に頷いてお礼を伝えた。食満先輩はニカッと爽やかな笑顔を私に見せた。戸惑ったり、真剣になったり、笑ってみたり。何だか忙しない人だなあ、なんて思う反面、正直ほぼ初めて話したと言うのに、親しみやすい人だなあ、なんて暖かい気持ちが生まれた。

「…あと、俺の勘違いだったらすまないんだが…」
「?はい」
「名字、俺の事苦手か…?」
「えっ…」

急に話題を変えてきたかと思うと、思わず体を強張らせてしまう。やっぱり気付かれていたのか…まあ、ちょっと態度に出ていたかも知れない。

「いや、俺って元々目付きも悪いし、よく怖がらせちまうんだ。だが、別に脅すとか殴るとかしねえし怖がってんなら…」
「ああ、えっと…そうじゃないんです…!」
「…違うのか?」

きょとんとした顔で見る食満先輩に、私はきまりが悪い顔で俯けば意を決して、言葉を続けた。

「…幼馴染の、変態の与四郎兄ちゃんに似てて、それで、その…」

「……変態」
「…変態なんです」


顔を見かけた時から、食満先輩が与四郎兄ちゃんに似ていると思ってしまった私は、性格も似ているなんて事絶対にありえないとわかっていたものの、少し身構えていた。そんな話を赤裸々に全て話せば、笑いながらも「苦労してるんだな」と肩に手を置いて同情してくれた食満先輩は、決して与四郎兄ちゃんとは似ても似つかない良い人だと認識した。



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