青春16切符 | ナノ


「久々知先輩…?」


どうしよう、久々知先輩がフリーズしてしまった。私がハチ先輩から久々知先輩が褒めてくれた事を聞いたと伝えれば、何故か少し久々知先輩の顔が赤くなった気がする。えっ何で赤くなったんだろう?…はっ。もしかして、久々知先輩って潔癖症っぽいしこんな埃っぽい所にいるから何かアレルギーとか…?だとしたら、こんな所にいつまでも居てもらう訳にはいかない。だが、久々知先輩はフリーズしている。七松先輩を呼ぼうか…?いや、益々病状が悪化するに違いない(?)。

「久々知先輩、大丈夫ですか…?」
「!」

とりあえずもう一度呼んでみようと試みれば、久々知先輩の肩がビクッと跳ねた。

「あ、名字さん…!」
「久々知先輩、大丈夫ですか?埃アレルギーって事黙ってますよね?」
「…え?埃アレルギー?」
「隠さないで下さい。埃を吸ったから顔が赤くなってるんですよね?」
「え、いや、これはその…だ、大丈夫!ちょっと熱気にやられただけだから!」
「…そうなんですか?」
「そ、そう!それでちょっとボーッとしたみたい!」
「…だったら少しの間休んでて下さい」
「いや、大丈「大丈夫じゃありません。そのまま倒れでもしたらどうするんですか?」…はい(今、一瞬伊作先輩が見えた気が…流石は元保健委員…)」
「それに、怪我人を放置していたら伊作先輩に怒られ……」

私の言葉を拒もうとした久々知先輩に思わず、言葉を被せてしまい且つ、凄んでしまった。あれ…なんか、この遣り取りを以前にもしたような…?そんな事が脳裏に過れば、引き攣った顔を浮かべる久々知先輩が視界に入り、ハッと我に返る。そして突如恥ずかしさが襲いかかり「す、すみません…」と謝れば、久々知先輩が優しく微笑んだ。

「謝らなくていいんだ。そこが、君の良い所だと昔から思ってたんだから」
「…昔から……?」
「あっ、いや、せ、生徒会に入った時から!」
「は、はあ…」

口を滑らせた、みたいな焦り様で言い返す久々知先輩に首を傾げるも、とりあえず倉庫から出て休んで貰うようにお願いした。久々知先輩ってば、ほんの数ヶ月前の事が昔に思えるのか…なんか不思議な人だなあ。

「でも、俺が休んじゃうとかなり時間が押すんじゃ…」
「心配いりません。私もいい加減怒りたかったので」

「えっ?怒るって…」

きょとんとする久々知先輩にニッコリと笑うと、私は体を反転させ未だにバレーボールで遊ぶ体育委員長とそれを傍観する喜八郎、止めようにも止めきれていない滝夜叉丸に向かって大きく息を吸い込んだ。


「よっしゃあ!次はいけどんウルトラスーパーアタ「コラアアア!!」…へ?」


「「(あ、やばい…)」」

七松先輩が本日7個目のボールを破裂させるべく手を振り上げた瞬間、私が大声で七松先輩の言葉を遮れば、一斉に私へと視線が降り注いだ。そのお陰でバレーボールは虚しくも床へと転がり落ちる。中等部の頃から私を知っている喜八郎と滝夜叉丸は、怒号から何かを察したのか、体を強張らせるとそそくさと倉庫の方へと歩みを進めたが、相も変わらず七松先輩はその場に立ち尽くし、目を丸くさせて、勢いよく向かってくる私を見つめたままだ。

「え…今叫んだの名前か?」
「ええ!七松先輩!!」
「えっはい」
「体育委員長の貴方がサボっててどうするんですか!委員会活動も碌にせず、バレーボールの破壊運動をなされると言うのであれば、潮江先輩に全てご報告させて頂き、今ある予算は全てカットします」
「え!?それはダメだ!困る!」
「困りますよね」
「困る!バレーボール買わないといけないんだ!」
「そうですよね。今日も無意味に破裂した可哀想なボール達の代わりも買わないといけませんもんね。…じゃあどうするんです?」
「委員会活動する!」
「じゃあ倉庫の片付け手伝って下さい」
「わかった!名前も行くぞ!」
「ぅえっちょ、」
「いけいけどんどーん!」

生徒会会計補佐として使える物は使う。
実は、体育委員会の手伝いに来る前に、潮江先輩からアドバイスを貰っていた。

【いいか?小平太を躾る時は予算カットを促せ。後はお前の気迫と巧みな言葉を使えば、あいつは簡単に大人しくなる】

成る程。実際にやってみてかなりの効果はあったみたいだ。七松先輩も、一応高校三年生なのだから、暫くは予算カットに怯えて大人しくなるだろう。あの恐ろしい七松先輩に詰め寄るなんて内心、体が震えそうな程に怖かったが、どうにかなったみたいだ。潮江先輩、ありがとうございます…。七松先輩に無理矢理腕を掴まれいけいけどんどんと倉庫に突っ走られながらも、心の中でそっと感謝した。



「七松先輩を手伝わせるなんて…やっぱり、凄いなあ」
(…でも、ああやって皆が名字さんの良い所をどんどんと知っていって、見る目が変わっていく事に気付いてしまうのが、嫌になる。なんて)

そんな中、それを見ていた久々知先輩が驚きつつも、目を細めて複雑そうに笑っていた事など気付きもしなかった。


「ごめんな、もう大丈夫そうだから俺も再開するよ」
「久々知先輩っ」
「兵助!お前サボってたのか!」
「「貴方にだけは言われたくありません!」」



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