青春16切符 | ナノ


一昨日は美化委員会。
昨日は飼育委員会。
そして、今日は体育委員会へとやって来ていた。

今日は、高等部の体育館全体の掃除するだとかで、少し大掛かりの為、生徒会から三人が体育委員会へと駆り出されていた。俺と、綾部喜八郎と、名字名前。
異色の組み合わせだなあ、なんて思いつつ、結局どんな感じでも異色になりそうだと結論付ければこの話を終わらせる。

「久々知先輩、これどうしましょうか?」
「あー、それはえっと…七松せんぱーい?」


「いけいけどんどんアターック!!」

パァン!


「おおー流石ですねえ、七松先輩」
「そうだろう!よし、もういっちょ!」
「七松先輩!もう今日でバレーボール破裂したの5個目ですからやめて下さい!喜八郎も思っても無い癖に無駄に煽てるな!」


「……うん、劣化も酷いし、捨てちゃおう」
「そうですね…」

体育館倉庫で道具の整理をしていれば、舞台手前で遊び呆ける七松先輩とそれを煽てる喜八郎、そしてそれを止めようと必死な滝夜叉丸を見れば、俺は何とも言えない気持ちで手にボロボロになったハードルを持つ名字さんに指示を出した。

こうなる事は少し予測していた。体育委員会は七松先輩から要請されたと言うより、滝夜叉丸から要請されたというのが正しい。そこに喜八郎が組み込まれてしまったのは予想外であった為に、実際に5人居ても、稼働しているのは俺と度々七松先輩を心配そうにヒヤヒヤしては止めに入る滝夜叉丸と名字さん。

「全く…自分達の予算に関わるだろうに俺に任せてていいのかな」

体育委員でもない俺が、体育委員会の道具リストを片手に劣化確認をしているのはどうにも腑に落ちない。仕事だと命じられた以上、きっちりこなすが、後で「あれまだ使えたのに!また予算から買わなきゃいけないじゃないか!」なんて文句を言われるのは溜まったもんじゃない。どうしたものか、と小さく溜息を吐けば、先程のハードルを廃棄物を纏めている一角へと移動させた名字さんが戻ってきたのか、小さな笑いが聞こえた。

「久々知先輩は優しいですね」
「名字さん…?」
「私が指揮取っていたら、多分全部捨てちゃってますよ、あはは」
「…そりゃあ本心はそうしたい所だけどね。けど、一応七松先輩には信用されてて任されてるんだな、て思うとどうにもね」
「…やっぱり私より、久々知先輩の方が真面目で、一生懸命だと思いますよ」
「?どういう事?」

ふいに、放たれた名字さんの言葉の意味が分からずに首を傾げれば、名字さんが頬を手で拭う様な仕草をして照れる様に言葉を続けた。

「…ハチ先輩から、久々知先輩が私の事褒めてたって、聞いたんです」
「!…あ、えっと、その」

冷静に考えれば、焦る程の話でも無かったのに、俺は何故かしどろもどろに言葉を詰まらせてしまう。



――俺が、名字さんを初めて目にしたのは、中等部三年生の時だった。体育の授業中に、自分で言うのも何だが、俺にしては珍しく大袈裟な程にすっ転んでしまい、膝を血だらけにした。洗っても滲み出る血にどうしようも無く保健室に迎えば、その日短縮授業でいち早く放課後を満喫していた二年生の名字さんが居た。

【え…怪我ですか…】

保健室に入る俺を見るや否や、至極顔を歪めた名字さんが、明らかに心配している類では無く、何で来るんだよという面倒くさい類の言葉だとすぐに気付いてしまった。俺も俺で、手当てをしてもらうつもり等無く、消毒液と絆創膏さえ貰えればいいと、とりあえず弱々しい笑いを浮かべて口を開いた。

【あー、えっと、消毒液と絆創膏貰えれば、自分でやるから…】
【…とりあえず座って下さい】

怪我人を部屋の入り口に突っ立たせたままの状態に流石に居た堪れなかったのか、俺を部屋の中へと誘導し、椅子に座らせた。すると名字さんが棚の中を漁り、消毒液と絆創膏が入っているであろう救急箱を取り出すと机の上に置き蓋を開いた。手渡されるであろうと、手を差し出せば名字さんは少しだけ目を丸くさせた。

【…手も怪我してるんですか?】
【え、いや違うけど…】
【じゃあ邪魔なんで下ろして下さい】
【え、あ…うん】

少しだけ威圧的な口調でそう言われれば思わず従って手を下ろした。それを確認すると、名字さんはピンセットを手に持ち、脱脂綿に消毒液を吹きかけると優しく俺の膝へと宛てがった。

【いっ…】
【すみません、少し沁みます】
【い、言うの遅くないか…】
【わかってると思いましたので】
【……】

変な奴だなあ、なんて消毒液の痛みに耐えながら、テキパキと手当てをする名字さんを見て考えていた。一通り消毒液で膝を覆うと、今度は化膿止めだろうかクリームを取り出した。

【あー、別にそこまでしなくていいよ。大した怪我じゃないし…】
【ダメです】
【いや、でも】

中等部の生徒会を務める俺にとって、多少なりとも高等部生徒会からの話も入ってくる為、保健委員会の低予算は把握していた。だから、こんな大した事ない怪我の為に何かしらの薬を使ったら、きっと伊作先輩が頭を抱えるに違いない。すると、名字さんは俺の言葉を許す事なく、クリームを膝に塗った。

【ここで私が手当てを放棄したら、伊作先輩に怒られますので】
【…なるほど】

確かに、人一倍怪我には煩い伊作先輩なら、何でそのまま帰したんだ、と怒りかねない。…だが、俺にはそれが名字さんが手当てをしているほんとうの理由でない気がした。面倒くさいと感じている事には違いなさそうだが、やるからには最後までやる。それがきっと名字さんの性分なんだろうな、なんて。



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