青春16切符 | ナノ


「ーさて、今期予算案も大体決まったところで、前回議題に上げた学園内の問題へと話を移そうか」


先日から今日まで、会計である潮江先輩、三木ヱ門、私の三人はどうにか、前期分の帳簿を定例会議までに間に合わせる事が出来た。私たちの顔が死んでいる事は誰も触れないでくれ。潮江先輩なんて目の下に隈まで作って…これは先輩が勝手に鍛錬(筋トレ)して作ったものだったわ。

そして、無事に今期の予算案を組む事も出来、会議は前回の議題に取り上げられた学園内の問題点へと移る。

「どうだ。勘右衛門?」
「あ、はい。えっと」

立花先輩にふいに目を向けられた尾浜先輩は一瞬体を強張らせたが、すぐに自分で纏めたであろう資料へと目を落とした。

「ここ最近、生物委員で飼育している毒虫や毒蛇がよく脱走していて、今回の現パロ設定により毒とは名ばかりで、噛まれたり刺されたところで全く何の症状が無い生物にしろ、迂闊に学園を歩けないと生徒から苦情が殺到しています。その件に関して、生物委員会が少し弛んでるのは無いかと…」
「ふむ、かなりのメタ発言が気になるところだが、生物委員長竹谷八左ヱ門。どうなんだ?」
「おほー!?(勘右衛門振りやがった!)い、いや確かに春頃から暖かくなってきてちょっと脱走しがちですけど、決して弛みとかでは…!」
「ちょっと竹左ヱ門先輩しっかりして下さいよ!」
「おい!その呼び方やめろって言ってるだろ友名前!」
「ではどう改善するんだ竹左ヱ門」
「たっ立花先輩まで…!(ていうか、勘右衛門が改善案出すんじゃないの!?)こ、今期予算内で頑丈な小屋や虫籠を早急に用意します…」

「他はどうだ?体育委員長七松小平太」
「そうだな、全力でバレーボールするには学園だと狭すぎる。もっと土地を増やそう!」
「却下だ。次。文次郎はどうだ」
「学園内の靴箱や共用ロッカーの劣化が激しい。買い替え自体は学園長へ申請するにしろ、塗装も何もせずあそこまで放置していたのは美化委員会がサボっていたのが原因だ。早急に弛みきった活動の改善をしろバカ留三郎」
「何だと!?前期の会計役員が予算ケチったせいでどうしようもなかったんじゃねーか!前期もお前が組んでたの知ってるぞアホ文次郎!」
「毎期の予算はカツカツなんだ!上手い事遣り繰り出来ねえ方が悪いんだろーが!」
「小平太がそこら中破壊しまくった修繕費で一杯一杯なんだよ!というかその修繕費、今期の体育委員会分から引いとけ!」
「それはダメだ!新しいバレーボールを買わなければいけない!一昨日と昨日で8個破れた」
「この前大量に買ったばかりだろう!またボロボロにしやがったのか!」


「(…あれ、何か主旨が)」

何だか思っていたものと違う。もっと、学園内の老朽化した箇所の大規模な修繕や、学園全体に関わる問題点の話だと思っていたのに、(靴箱の買い替えとかは話的には合ってるんだけども)これではただの各会同士の荒探しと罪の擦り付け合いでは無いか。そんな言い争いを見ていた立花先輩も深いため息をついた。かと思えば、目が合った。

「名前、お前はどうだ?」
「えっ(この流れで私なの?)えっと…、中高含めて色々な意見を聞いてきたんですけど、意外にも困っている事だったり不満(七松先輩に無理矢理バレーボールさせられるのが主)が大なり小なり沢山ありましたので、まず私としては一つの問題に焦点を当てる前に、全校生徒の不満や問題を明確に知る為、目安箱を設置するのはどうかと…」
「…ほう、目安箱か。そう言われてみれば、うちの学園には無かったな」
「うん!それ良いと思う!」
「…そうする事で明確な問題点が浮き彫りになる。良いアイデアだ」
「そうだな。そこから徐々に改善する方が確実か」
「流石は俺の補佐である名前だ!」

いつの間にか言い争いも止み、私の意見に賛同する皆を見れば好感触だったと心の中で喜ぶ反面、結構他の学校じゃやってると思うけどあんな言い争いが起きる会議じゃこんな普通の意見すら出て来ないんだろうな、なんて思った事は内緒にしておこう。


「ーでは、各々から出た意見の中で、靴箱や共用ロッカーの買い替えの提案と、中等部と高等部それぞれに目安箱の設置を学園長先生に申請しておく。…小平太、さっきの意見は目安箱は入れても通らんからな」
「ちっ」
「(入れる気だったのかよ。土地は無理だって)」
「目安箱に関しては設置後、定期的に確認をして改善していこう。後の事細かな問題は各委員会が責任持って改善していけ。本日の会議は以上だ」
「起立!礼!解散!」

私の意見の後にも、それぞれの問題点と改善案(主に各会への不満)を聞き終えると、立花先輩は簡潔に纏め会議を終了させた。



「名字!」

会議を終え、生徒会室から足を踏み出した私の背後から聞こえた声に何故かぞくり、と寒気が走った。そうなるのも仕方がない。先程まで散々会議を言い争いで荒らしていた体育委員長の声だったのだから。

「…な、七松先輩。何でしょうか…」
「お前一年の癖にしっかりした意見言うんだな!関心したぞ!」
「あ、あははありがとーございます(土地増やせと言っていた人に関心されても…)」

先日の三木ヱ門のバレーボール事件然り、他生徒からの不満然り、先程の会議での問題発言然り、出来るだけ七松先輩とは関わりたくないと結論に至った私は早くこの場から立ち去りたい気持ちで一杯だった。

「そ、それでは私はこれにて失礼…」
「会議も終わったしどうせ帰るだけだろ?私に付き合え!」
「…そ、それはつまり?」
「一緒にバレーボールしよう!」
「(ひええええ!ターゲットにされたー!!)い、いやあ、その…私みたいな非力な女では七松先輩のお相手はとても務まりませんので…」
「そんなのお互いが楽しめれば問題ない!」
「(楽しめるのは七松先輩だけだよ!)いや、でも…」

困った。窮地に追いやられてしまった。七松先輩を怒らせない様に逃れられる上手い言い訳を、と言葉を考えるが中々出て来ない。

未だ生徒会室で帰る準備をしている友名前に助けを求め様にも、おそらく立花先輩にキラキラ目を輝かせては(一方的に)話に花を咲かせて気付いてくれないだろう。あっ三木ヱ門助け…おい!素通りして行くな!うわ、たまに生物委員会手伝ってあげてたハチ先輩まで!もう頼まれても手伝わないからな!ああもう誰でもいいから助けてくれ!


「七松先輩」


「…ん?兵助か、どうした?」

その時、七松先輩の背後から救世主のような声が聞こえた。く、久々知先輩!

「すみません、ちょっと名字さんと生徒会の件でお話があるんですが…」
「なんだ、それなら仕方ないな」
「あ、そう言えばさっき八左ヱ門が今から暇で暇で仕方ないって嘆きながら歩いてましたよ」
「そうか、じゃあ今日は八左ヱ門でも誘うか!名字はまた今度バレーボールやろう!」
「は、はい是非!(助かった…!今後の逃げる言い訳もさっさと考えとかないと)」

久々知先輩の言葉にあっさり身を引いて笑顔で去っていく七松先輩の背中を見送りながら心の奥底から安堵を漏らした。

「大丈夫?名字さん」
「あ、はい…!すっごい良いタイミングでした。それで、お話って?」
「ああ、嘘だよ」
「…へ。あっもしかして…」

隣でくすくす笑う久々知先輩を見て、助けてくれたのだと、理解すると思わず嬉しさが込み上がった。

「すみません、有難うございます」
「困っていたら助けるのは当たり前だよ。それにしても、全く八左ヱ門の奴は、可愛い後輩が困ってるのに素通りするなんて酷いな」
「…因みに、ハチ先輩の暇で仕方ないと言う嘆きは…」
「あれも嘘だよ。くくっ八左ヱ門、今頃大変だ」
「ぶふっ…久々知先輩って、意外に酷いんですね」
「後輩を助けない方が酷いよ」
「そうですよね。ハチ先輩可哀想…ふふっ」
「そうだね、無事を祈ろう。くくく…」

ハチ先輩に今頃降り掛かってるであろう悲劇を想像すれば、同情しつつも、久々知先輩と二人で顔を見合わせて笑い合った。



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