カムバック, アゲイン! | ナノ


「現なまえー。すまないが、新聞取ってきてくれないかー?」
「はーい」

朝起きて、転生前に随分お世話になった利吉さんもとい、今現在兄である利也お兄ちゃんに頼まれた私は家の外へと出るとポストへと向かう。

「あれ?まだ来てない?」

いつもならこの時間にはとっくに新聞が入っているはずなのに。と首を傾げると、勢いよく走る自転車が目の前を通り過ぎた。(あ、朝から元気あるなあ)なんて驚いていると、少し遠くで急ブレーキの音が聞こえる。先程の自転車だろうか、と顔を乗り出し自転車が通り過ぎた道を見てみれば、再びこちらへ向け先程の自転車が走ってきていた。(な、なんだなんだ)

キィッ

「えっ」

すると、先程よりも控えめに自転車がブレーキを掛けて、今度は私の家の前で立ち止まった。(びっくりして思わず声出ちゃった)

「あ、あの…?」
「すみません、今日新聞配達でこの家抜かしちゃってたみたいで」
「…ああ!だから新聞無かったんだ。わざわざありがとうござ…ん?」

その人をよく見れば、街でたまに見かける新聞配達をしている大きなカゴ付きの自転車を漕ぐお兄さんだった。自転車を全力疾走で漕いでたのは、新聞を早く届けようとしてくれていたのか。そう理解した私は、笑顔で新聞配達のお兄さんから新聞を受け取り礼を言おうとした。…が、キャップ帽の下からちら、と覗いた顔にその言葉は途中まで出ると引っ込んでしまった。


「き、きり丸くん…!」
「ん?誰っすか、それ」


それは、前世の忍たま一年生で手のかかると噂の一年は組にいたきり丸くんだった。(あーんな小さかった子が、こ、こーんなに大きくなっちゃって…!)きり丸くんだと気付いた私は、驚きのあまり口に手を当て、思わずきり丸くんの頭のてっぺんからつま先までを見通した。昔のきり丸くんは10歳で身長は私の胸下あたりまでであったが、今や年は大体私と同じ20歳くらいで、身長は私よりも一頭身程高く、元々の顔立ちの良さからとても素敵な笑顔を見せる男の子だと、思わず感嘆の声が漏れた。そして、じわじわと涙が溢れ出しそうになる。

「お、大きくなったね…!」
「?お姉さん、誰かと勘違いしてるんじゃ?それに俺、きり丸じゃなくて摂野霧也(せつの きりや)です」
「そしてやっぱり、生まれ変わってもバイト三昧なんだね…!」
「(あれ?無視された?)な、なんでお姉さんがそんな事知って…」
「あ!ちょっと待ってて!」
「え、あ、ちょっと!」

現代でも汗水流して(多分さっき自転車全速力で走ってたから)頑張ってバイトするきり丸くんに涙ぐんだ私は、ぴん、と何かを思いついた様にきり丸くんをそこに呼び止めたまま家の中へと走り込んだ。



「ごめんね!新聞配達の途中なのに」
「それはいいんすけど…一体何すか?」
「これ!」

しばらくして戻ってきた私は、とりあえず受け取った新聞を利吉さんに適当に投げ渡し、後で食べようと手焼きしていたパンをいくつか袋に詰めてきり丸くんへと手渡した。

「?パン?」
「うん!あげる!」
「あげ!?…い、いいんすか?貰っちゃって…」
「(おお、一瞬銭の目になった…やっぱり今も昔もきり丸くんは相変わらずだわ、良かった)うん!いつもきり丸くんが新聞配達してくれるお陰で助かってるから」
「あ、ありがとうございます!お姉さん、良い人っすね!あと俺、霧也です!」
「いやいやーそんな。あと、山田現なまえって言います」

本音を言えば、昔のきり丸くんの性格が残っているのかどうかを確認したかっただけであるが、予想以上に喜んでくれたきり丸くんに、私まで嬉しくなり今度からたまに差し入れあげよう、と心の中で決めた。


「それじゃ、現なまえさん!これからもご贔屓に宜しくお願いします!」
「きり丸くんも、体調崩さない程度に頑張ってね!」
「ありがとうございます!あと、きり丸じゃなくて霧也ですからね!」

少しだけ世間話を済ませ、きり丸くんは自転車を漕ぎ出すと爽やかな笑顔で家の前から去って行った。(朝から忍たまの子に会えるなんて嬉しかったなー)これまでに何人かには前世の知り合いと出会っているが、まだまだ数人程度。(この調子でもっと出会えたらいいな)なんて思いながら少し上機嫌で家へと戻る事にした。

「ただいまー。…あれ、利吉お兄ちゃん、何で悲しそうに新聞読んでるの?」
「しくしく…現なまえが俺に適当に新聞を放り投げるなんて…ついに反抗期か…相変わらず名前も違うし…」
「(はっ…そういえば無意識に適当に投げたんだっけ)あ、あはは…ごめんごめん。ちょっと急いでたから。反抗期とかじゃないから安心して!」
「なら良いが…。それにしてもやけに焦ってたな。さっき作ったパンまで持って、誰か知り合いにでも渡したのか?」
「うん!素敵な新聞配達のお兄さんに!」



(たまに早起きして、今度からきり丸くんに差し入れあげようっと)



■おまけ■

「し、新聞配達のお兄さん…?まさか現なまえ、そいつの事好きになったのか!?はっ!ま、まさか既に彼氏とか…!俺は許さないぞ!」
「り、利吉お兄ちゃん…違うから」
「な、なら良いんだが…」
「利吉お兄ちゃんてば、案外心配症なんだね。別に怪しい人じゃないから心配しなくていいのに」
「いや、そういう訳じゃなくて…(怪しいとか怪しくないとかそうじゃなくて…いや関係なくはないんだが。それはさておき…そろそろ現なまえにもそういう男の1人や2人連れて来る事があるかも知れないと思うと…あああ心配だ…!いや何、現なまえに言い寄る虫けらの様な男どもは全て俺が排除すれば大丈夫だ!うん!)現なまえ、お前の事は俺が絶対守ってやるからな!」
「(百面相し出したかと思えば何を言ってるんだ利吉さんは)ありがとう利吉お兄ちゃん(棒読み)」

利吉が過保護すぎる事は、現なまえは知る由もなかったり。



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