カムバック, アゲイン! | ナノ


「乱太郎ー!おはよう!」
「現なまえ、おはよう…ってもう、何で僕の名前いつも間違えるのさ。乱太郎じゃなくて乱太(らんた)!良い加減に覚えてよー」
「あはは、ごめんごめん」

朝、いつものように大学に通う私は校門をくぐると、見覚えのある背中を追いかけて走れば、ぽんっと背中を押して挨拶する。すると、それに気付いた乱太郎もとい、乱太が呆れながらも返事を返した。
私がいた前世の室町時代では忍たまの一年生で背が小さくてあーんなに可愛かった乱太郎が、現代では私と同じ歳で同じ大学に通う大学生だなんて。(入学式で見かけた時は信じられなかったなあ)昔は年下という事もあり、何かと乱太郎がやらかした時は私が尻拭いをした事もあったが、今や私の方が乱太郎に世話を焼かせてしまっている。(背も私より大きくなって立派に成長して…)(ああ、思わず泣きそうになっちゃった)

「現なまえ?ぼーっとしてないで早く行くよ」
「へ?あ、待って乱太郎ー」
「だから乱太だって!」


「…田中…前なまえ…?」


「…え?」

その時、私は耳を疑った。
そして、声がした方へと勢いよく振り返った。(だって、その名前は私の前世の名前…!)
すると、そこにはやはりと言ったところか、前世から見知った顔の人物が私と同様に驚きを隠せない表情で立ち尽くしていた。

「ど、土井先生…!!」
「やっぱり、田中なんだな!?」
「はい!土井先生!お久しぶりですー!」

その人物は、前世では学園で随分お世話になった土井先生だった。私は土井先生を見るや否や、感動に涙を溢れさせ土井先生の手を握る。土井先生も同様に涙を流しながらお互いに手を握り合う光景に乱太郎がきょとん、とした目で私達を見ていた。

「あのー…現なまえ?寺井先生?感動の再会のところ悪いんですけど、二人ともお互いに名前間違えてますよ…」
「「合ってる!!」」
「ええええ…」
「(乱太郎は相変わらず記憶が無いままだからなあ、これ以上ここで田中と話せばややこしくなるか…よし)田中、ちょっと」
「?」

全く話についていけない乱太郎が頭にはてなを浮かべていた様子を見た土井先生はこれ以上はややこしくなる、と考えた後に私に耳打ちで「授業が終わったら、教育学部の講義室まで来てくれ。ゆっくり話そう」と伝えた。

「!はい、わかりました」
「よし、それじゃあ。乱太ろ…乱太もまたな!」
「はーい(そう言えば、寺井先生もたまに名前の後に郎を付けたがるんだよなあ…確かに、僕も乱太郎がしっくりきてしまうのは何故なんだろうか)」



*****

「それじゃあ、やっぱり田中も前世の記憶も持っていたのか」
「まさか土井先生も覚えているなんて、とっても心強いです!それにしても、まさか土井先生がこの大学に居たなんて。乱太郎ともお知り合いだったんですね」
「つい最近、転任してきたんだよ。聞く限り田中とは違う学部みたいだしお互いに知らなかったのも無理はない。乱太郎とは選択授業で会ったんだ」
「なるほど。でも、土井先生はやっぱり先生なんですねえ」
「自分でも驚きだよ。性分なんだろうね。でも今は寺井春助(しゅんすけ)としての人生を歩んでいるよ」
「大学の先生になったのは、やはり子供達のあの自由奔放さに嫌気がさしたんですか?」
「ははは!まあ、そうかも知れないな。君もあの頃は普段から大人しい子だったが、実習で失敗したりたまに問題を起こされたりした時は困ったものだよ」
「もう、先生ってば。昔の話ですよ!」

授業が終わると、私は急いで教育学部の講義室へと向かった。講義室に入れば、先程も感じていた懐かしさと、何より私の他にも前世の記憶を持ってして生きている仲間がいるという安心感が広がり、つい思い出に花が咲いた。

「いやあ、しかし乱太郎も含めて、今までに虎若や団蔵たちにも会えたんだがなあ。皆覚えていないし、何より喜三太が私より年上なもんだから参ったよ」
「あ、あの喜三太が…あはは」
「田中の方はどうだ?乱太郎や私の他には?」
「いやあ、それが利吉さんが、私の兄なんですよね…全く覚えてないですし」
「!…利吉くんが田中のお兄さん…(田中の兄とは美味しいポジションを手に入れたもんだな…。あいつは前世でやたら田中の事を気にかけていたからな…心配ではあるがまず記憶が無い上に兄妹ならば、手を出す事もなかろう…がしかし)」

私が利吉さんの名前を出すと、何故か土井先生が一瞬動揺したかの様にぴく、と反応し、俯いたかと思うと考え込む様な表情を浮かべた。

「?どうしました?(何か今嫌そうな顔した?)」
「…いや、何でも」
「そうですか?まあ、とりあえず今も利吉さんが兄っていう事には抵抗ありますけど、私も何とか山田現なまえとして頑張って生きてます」
「…そうか。そうだな」

へらっと笑顔を見せれば、土井先生も優しく笑い返してくれた。そして私へと歩み寄り、ぽんと頭へ手を乗せた。

「あの時は、無邪気に走り回ったり昔も昔で可愛いくのたまだったが、今じゃ立派な大人になって笑い方もすっかり綺麗な女性だもんな」
「!せ、先生…きゅ、急に何言い出すんですか」

突然の言葉に私は驚きを隠せなかった。だが、そんな私に構う事なく土井先生は言葉を続ける。

「歳も前世では私と11歳も差があったが、今では5歳差とかなり縮まったし、生まれ変わると言うのも良いものだな」
「ど、どういう意味ですか…?(ていうか、土井先生相変わらず25歳なんだ)」

土井先生の言葉の意味がわからないと、私が首を傾げると土井先生は再び優しく笑った。


「私が、君に堂々と好きだと言う事が出来るようになったと言う事だ」
「!な…」


そして、私の先程からの疑問に土井先生が、纏めて確信的な答えを出した。そんな土井先生に私は一気に顔を赤くする。

「ど、土井先生が私の事…?そ、そんな訳…!というか、今も先生と生徒なんですから昔と何も変わってませんよ!」
「2年後に卒業すれば関係ないじゃないか」
「!う…あ、えと…」

土井先生の言葉に私が上手く返せないでいると、土井先生が再び私の頭を、優しく撫でた。

「…すまん。久しぶりに会って早々、こんな事言われても困るよな」
「せ、んせい…」
「でも、私はずっと田中の事を探していたんだ。そして会えたら、ずっと言おうと思っていた」
「……」
「勿論、今はまだ先生と生徒だから付き合ってほしいとは言わないさ。だから、卒業したら田中の答えを聞かせてほしい」
「…わ、わかりました…」
「よし、良い子だ。それまでにしっかり考えておいてくれよ」

真剣な顔つきの土井先生に思わず、見惚れてしまう。そして、私が小さく頷くと、土井先生は撫でていた手を少しだけ乱暴に動かして私の髪を優しく乱した。(…今でも子供扱いしてる気がするんだけどなあ)そして、土井先生の暖かい手は昔も今も好きなんだな、と改めて実感した。



(土井先生はやっぱり土井先生でした。けれど、卒業してからはどうなるか…まだまだ先のお話)



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