カムバック, アゲイン! | ナノ


ピピピピ、といつもの朝を告げるアラームが私の夢の中にまで入り込む。その音にまだ眠気に包まれる私は手探りで音の鳴る携帯を掴もうとするが、中々その感触を得る事が出来ない。

「おーい!起きろー!」
「っ!び、びっくりした…」

すると突然、部屋に響き渡る大きな声に私は思わず布団から這い出る様に飛び起きた。声の主へと顔を見遣れば、その人物は悪戯っぽく笑みを浮かべ、手には先程アラームが鳴っていた携帯を持っていた。

「どうだ、目が覚めただろ」
「も、もうっ勝手に入ってこないで下さい!」
「お前が起きるの遅いからだろ。ほら、朝ご飯出来てるんだから早く着替えて食べてくれ」
「…はあい」

そう言って仕事用の白シャツの上からエプロンを羽織った人物はそう言うと、パタパタとスリッパを鳴らしながらキッチンへと向かった。
その背中を見届けた後、私は小さく溜息を吐き、ベッドから身を下ろした。

「はあ。利吉さんが毎朝起こしに来てくれるなんて、心臓に悪いよ…」



私は山田現なまえ。
今年めでたく成人したぴちぴ(ry)の20歳。至って平凡な生活を送る大学生。なのだけれども、どういう訳だか、室町時代に生きた前世の記憶を持ってして今を生きている。ちなみに昔の名前は田中前なまえ。(どっちにしろ平凡な名前だ)
今の時代では考えられないが、室町では忍者になる為の学校がそこかしこに建てられており、その一つである忍術学園へと私は通っていた。(と言っても前世からこの平凡な性格の私は、礼儀教養として通っていただけ)その忍術学園という学校での生活を過ごしていた中で、突然の敵の襲撃によって命が断たれてしまった。
そんな話を今までに家族にも友達にも、何度か話してみた事はあったけれど、まるで相手にされず変な子だと思われるだけであった為に、早々に誰かに話す事は諦めていた。
けれども、私に残る前世の記憶はいつまで経っても鮮明なままで、室町時代の忍術学園での日々の生活も、敵の襲撃にあったのも、まるで昨日の事の様に忘れられずにいたが、今の生活に戸惑いながらも平凡に過ごしてきた。(まあ困る事は何も無いしね。寧ろ便利すぎるくらい)


「わー良い匂い」

大学に通う私は手短に身支度をすませると、朝食が置かれたリビングへと向かった。扉を開けると、清々しい朝をそのまま絵にした様な光景が広がっており、ベーコンと目玉焼きに白ご飯と味噌汁がテーブルに並べられて居た。(家ではパンが出た事が無い)(何故なら、きっと作る人が専らの忍者だからだろうなあ)(昔から頑固そうだったし…)

「だろ?冷めない内に早く食べてくれ」
「うん。いつもありがとう、利吉お兄ちゃん」

全ての朝食を机に並べ終えた利吉さん…もといお兄ちゃんがエプロンを外して椅子へと座る。そして、私の呼び名を耳にすると小さく溜息を吐いた。

「…何でお前は小さい時からいつも俺の名前を間違えるんだ。現なまえの兄ちゃんの名前は利也(としや)だって言ってるだろ?」
「えへへ、ごめんごめん利吉お兄ちゃん。じゃあ、いただきまーす」
「……はあ。(最近になってやっと敬語も無くなってきたって言うのに)いただきます…」

何か言いたげであった利吉さんだが再び小さく溜息を吐くと、私と同じ様に朝食を食べ始めた。
利吉さんは忍術学園の先生である山田伝蔵先生の息子で、よく学園にやってきはフリーの忍者で活躍するその腕前を華麗に披露してくれていた。生徒からの人気もあり、面倒見の良い利吉さんは平凡でくノ一教室の中でもあまり目立たない私にさえ、たまに見かければ声をかけてくれていたとっても優しい人。
そんな人が今や私のお兄ちゃんだなんて。(ていうか、私の苗字が山田の時点で絶対山田先生と利吉さんの子孫から生まれてるよね私…)初めは一つ屋根の下に一緒にいる事自体が夢みたいだ、と信じられず妹のように(妹なんだけれども)話しかけられる事にも戸惑って居たが、両親の仕事が忙しく殆ど家にいない為、小さい頃から家事全般は勿論、私の面倒を見てくれていた利吉さんとは接する事は必然的に多かった為、現在進行形ではあるが徐々に歩み寄れる程にまで来ていた。(とは言っても気が緩むと、昔に戻っちゃうんだけどね)

「ご馳走様でした」
「お粗末様でした。洗い物は俺がやっておくよ」
「ありがとう。じゃあ、大学に行ってきますね」
「け・い・ご!」
「あ。い、行ってくるね。利吉お兄ちゃん!」
「(…何故名前は直らない)…現なまえ」
「え?」

食器をシンクまで運び終えると、私はリビングの扉へ手を掛けた。その時、利吉さんに名前を呼ばれひらひらと手招きされるもんだから、大人しく利吉さんへと歩み寄った。

「なに?利吉おに…」

すると、ふいに両手で顔を掴まれ、ぐい、と寄せられたかと思えば、頬に少し熱を感じた。

「頬っぺたにご飯粒つけて外出ようとするなんて、幾つになっても現なまえは可愛いな」
「…!!ふ、普通に教えるか手で取って下さい!」
「また敬語!」
「うるさい!利吉さんのばーか!いってきます!」

私の頬についたご飯粒を何故か口で取って食べた利吉さんに一気に恥ずかしさが込み上げ、ぼんっと音を立てたように顔を赤くした私はパニックになりながらも無我夢中で家を飛び出した。


「う、うるさい、ばかって、兄ちゃんに向かって…まったく。…行ってらっしゃい」



(利吉さんがお兄ちゃんだなんて、嬉しいけど心臓に悪い!)



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