カムバック, アゲイン! | ナノ


「前なまえさんに会いたがってる人がいます」

先日、前世の記憶を持つ今や小学生の喜八郎くんと夕方どきの公園で奇跡的な再会を果たした。それから幾度か会っていたある日、そんな言葉を発せられた。

「会いたがってる…って、もしかして記憶がある人に会ったの!?」
「はい。向こうから声を掛けられまして。で、前なまえさんの事を話したら、向こうが会わせろとしつこいので(本当はめちゃくちゃ嫌だけど)」
「そ、そうなんだ(何で喜八郎くんが嫌そうな顔をしているのだろう…)その人って一体…?」
「それは会ってからの楽しみにしてて下さい。日取りなんですが、今度の日曜日は大丈夫ですか?」
「日曜日?…うん、その日は予定入れてないから何時でも大丈夫だよ」

喜八郎くんに言われてスケジュール帳を取り出して予定を確認すれば、その日には何も書かれていない事を伝える。

「では、向こうにもそう伝えておきます。時間は…14時とかで良いでしょう。場所はこの公園で。僕は用事があって行けませんので、くれぐれも何もされない様に用心して下さいね」
「よ、用心て…(用心しないとやばい人って居たっけ。…あ、なんか今一瞬頭に暴君先輩が過った気がする)」
「もし、万が一何かされたら、すぐ傍の交番に駆け込んで下さいね」
「は、はい…」

会ってからのお楽しみだと、謎に包まれたその人物がもう既に浮き彫りになっている私の中で、喜八郎くんの言葉が妙にリアルで何だか怖くなった。



*****

あれから日曜日が来るまで、私に会いたがっているという人物が誰なのか大体わかりつつも、ドキドキそわそわと落ち着けずに日々を過ごした。

そして、約束の当日。
前世ではフリーのプロ忍者として活躍し、忍術学園の生徒の皆から羨望の眼差しを浴びていた利吉さんが、今や私のお兄ちゃんに転生しており、そんな利吉さんに作ってもらった昼食を食べ終えると、私は家を飛び出て公園へとやってきた。

「会えるって言うのは凄く楽しみなんだけど…いきなり殴られたらどうしよう…。いや前世でそんな事された記憶は無いから大丈夫だと思いたい…(よく唐突に後ろから抱き締められた記憶はあるけど)」

公園に着いた私は、見つけてもらうには打ってつけであろう、中央にそびえ立つ時計の下へと移動し、約束の人物を待っていた。時間が近付くに連れ、そわそわと落ち着かない。公園の時計を見上げれば、もうそろそろだ。(…そういえば、先輩は今の時代では何歳なんだろう?)


「っいけいけどんどーん!!」


「ぅわあっ!」

頭でそんな事を思っていれば、後ろからふいに与えられた衝撃に声が漏れる。(こ、この声と台詞は…!)聞き慣れた声と台詞に予想は確信へと変わった。前世で散々くらわされた抱き着き攻撃。(本人は只のジャレ合いだと言っていたがアレはどう考えても奇襲だった)だが、今しがた与えられた衝撃は思った以上に軽く、後ろをくるりと振り返れば。

「や、やっぱり、七松先輩…!」

やはり予感は当たっていた。そこには、私の一つ年上であった、忍たま六年生の七松小平太先輩の面影を十分に残した、小学生(喜八郎くんよりは大きい…四年生くらいかな?)が私の膝裏にがっしりくっついて笑っていた。

「も、もう!驚かさないで下さいよ!七松先輩っ」
「?俺は七松先輩じゃない!七谷小平(しょうへい)だ!」

「…へ?」

お馴染みの台詞で、学園にいた頃のように突然抱きついてくるものだから、てっきり記憶があると思い、そう話しかければ思ってもみなかった返事を返されて私の喉からは何とも間抜けな声が出る。たしかに、記憶を持ってるとは思えない様な年相応の小学生らしい話し方に困惑し始めてしまう。(あれ?じゃあ何で此処に来てるの…?)


「おい!小平太!勝手に先行くなよ!」
「お、文典(ふみのり)!この人が前なまえか?」
「そうだが…ってお前、確認もせずに抱き着いたのか?」
「おう!なんかそんな気がした!」
「ったく…!」
「…やっぱり小平は足が速いな」
「文典と長治(ながはる)が遅いんだろ!なはは!」

その時、七松先輩を追いかけてきたのであろう同じ小学生の男の子二人が現れた瞬間、私はようやく事の理解を進めた。

「も、もしかして…潮江先輩と、中在家先輩?」

「おう!前なまえ、久しぶりだな!」

そして、今の会話からすると私に会いたがっていたのは、どうやら潮江先輩だった。



*****

「凄いですね…喜八郎くんも滝夜叉丸くんと三木ヱ門くんとお友達でしたし…まさか、お三方もまたお友達とは」
「まあ、腐れ縁て奴だろう。留三郎とバラバラになれたのは清々してるぜ」
「…(本当は寂しいくせに)」

思った通り、記憶を持っていたのは潮江先輩だった。私は状況を整理すると、公園のベンチへと座り目の前で駆け回る七松先輩と中在家先輩(雰囲気は前と大差は無いけど、今の方が年相応に子供らしくて何だかホッとしちゃう)を見ながら潮江先輩と話を続ける。

「喜八郎くんとは同じ学校なんですか?」
「ああ。この前校庭で見た時に思わず声を掛けてしまったが、記憶を持ってたのには感激したな」
「…良かったです。喜八郎くん、記憶がある事で大分悩んでたみたいですから」
「記憶持ってりゃ辛い事の方が多いのは当然だ」
「…潮江先輩は小学生でも潮江先輩ですね。(目の下の隈も相変わらずだし、最早デフォなんだな)流石です」
「なんか褒められてる気はせんが、当たり前だ。…ところで、前なまえはもう伊作に会ったんだってな?」
「あ、そうです!近くの病院に勤めてるので今度会いに行ってあげて下さい」
「そりゃあ、すぐにでもそうしたい所だが今のガキの姿ではなあ。ま、風邪引いた時にでも顔は見てくる」
「…喜八郎くんもそうですけど、やっぱり小学生だと行動範囲が狭まりますもんね…。何だか歯痒いです」
「どうにも出来ん事だ。お前が気にする事ではない」
「それはそうなんですけど…」
「それにしても、まさか現世じゃお前の方が年上とはな、それも十歳差とは随分離されたものだ」
「…確かに。何だか凄く変な感じします」
「ははは、そうだな」

そう言われて、改めて隣を見ればちょこんと座る潮江先輩の姿は小学生そのもの。前世で見ていた潮江先輩も七松先輩も中在家先輩もがっちりとした男らしい体つきで、今の姿からはまるで想像できない程に対照的であった。頼り甲斐があって、前世ではよくお世話になったなあ。なんて思い出に浸れば、自然と笑みが溢れた。

「…また、皆で集まれたらいいですね」
「まあ集まれたとしたら、他の奴らがどうかわからないが少なくとも伊作だけかなりおっさんだぞ」
「ふふ、そうですね。…でも潮江先輩にだけは言われたくないと思います(ぼそぼそ)」
「聞こえてるぞ!!」
「ひいっごめんなさい!(小学生に敬語で謝ってる私って一体)」



(小学生の潮江先輩と中在家先輩は違和感あったけど、七松先輩だけは違和感が仕事していませんでした)



■おまけ■

「伊人先生、交代しますのでお昼どうぞー」
「ありがとう。それじゃあちょっと行ってくるよ」
「ごゆっくりー」


病院を出て近くのコンビニまでお昼を買いに向かう。何にしようかな、なんて考えつつもいつもの似たり寄ったりな弁当を手にすればレジへと向かった。

コンビニを後にすれば、今日は息抜きに外で食べようかな、と思い公園へと向かっていれば、ふと見覚えのある人物を捉えた。

「…あれ、あの人は確か」

以前、風邪を引いてやってきたかと思えば、知らない名前を呟いて、突然泣き出した山田現なまえさんだ。どうやら僕が伊作先輩って言う人に似てたらしい。突然の事には驚いたけれど、何だか可愛らしい人だなあ、なんて思った。

そんな山田さんが日曜日のお昼過ぎに公園で誰かと楽しそうに話している。話し込んでいるのならば、公園に入って話しかけるのは迷惑かな。そう思い公園はやめておこうと思いながらも、少し気になって話し相手が分かる程度に近付いてみる。


「なあ、前なまえ!お馬さんごっこやろう!」
「…凄い嫌な予感するんですけど、どんな遊びですか?七松先輩」
「前なまえが馬になって俺が乗る!」
「…拒否権は」
「無い!」
「…俺も乗りたい」
「んじゃ俺の後に長治な!」
「ええっ中在家先輩も!?し、潮江先輩助けて下さい!」
「まあまあ、相手は小学生だ!付き合ってやってくれ!長次!お前の次は俺だぞ!」
「しっ潮江先輩は違うでしょ!!」
「まあまあ、俺も小学生だ!付き合ってやってくれ!」
「(潮江先輩は絶対違う!)…少しだけですよ。あと、早く走れとかあんまり無茶な事出来ませんからね」
「おう!」


「…え」

思わず弁当を落としそうになった。
え、何どういう事?大学生の山田さんが公園で小学生の男の子三人と遊んでて、小学生の男の子相手に敬語を使って先輩呼びしてる挙句に、違う名前で呼ばれててお馬さんごっこを強制されてる…?まさか、素性を隠してそういうプレ(ry)

…見てはいけないものを見てしまった気がする。

僕は暫くその場から動けずにいた。



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