空気を読んでくれ
「『……』」
診察室から出てきたあかねは何だかスッキリした顔をしており一体何があったのかと気になっていたが、何故だか聞くに聞けず、帰り道は二人とも無言で歩いていた。
(…あーだめだ!やっぱり気になる)
だが、ずっと頭に思い悩むうちに限界を迎えたあたしは、前を歩くあかねにゆっくりと口を開いた。
『あ、あかね、あの…』
バシャッ!
『……』
「大丈夫?」
あたしが言葉を言いかけた瞬間、通りがかった家の前からお婆ちゃんの撒いていた水がいつも乱馬がかぶるように、あたしに襲いかかった。(…空気を読んでくれ)
『あ、あはははは…』
水をかぶったあたしは当然男に変身してしまった。そんな自分に情けなくなり、それと同時に重くなった空気もどこかにいったかの様に、あたしは笑うと『早く帰ろ!』とあかねの腕を引き歩き出した。
「なまえ」
すると、あかねがあたしの名前を呼んだ。振り返れば、あかねは真剣な表情で「あのね」と言葉を続けた。
「…髪、切ろっかなって思うの」
『…へ?』
思わぬあかねの言葉にあたしはきっと物凄く間抜けな顔をしたと思う。
「なまえには庇ってくれたから凄く悪いって思うんだけど…髪を切ったら東風先生の事忘れる事出来そうなの」
『…さ、さっき…何かあったの…?』
「先生にね、短くしようと思うって言ったらあかねちゃんらしくて良いって。その時思ったんだ。かすみお姉ちゃんの真似して長くしたけど、やっぱり先生はかすみお姉ちゃんしか見えてないって」
『…あかね』
「だから、いつまでもかすみお姉ちゃんの真似して先生を追いかけるのはやめようって」
『…そっか』
「ごめんなさい。折角…怪我までして髪守ってもらったのに…」
そう行ってあたしの怪我に顔を伏せたあかねにあたしは微笑んだ。
『ううん。あかねが自分の意志で切るって決めたんなら、今度は止めないよ。あたしもきっとショートヘアのあかね可愛いと思う!(見た事あると言うか見慣れてるというか)』
「!(どきっ)」
『…?あかね?どーしたの?』
「っううん!は、早く帰ろっ」
あたしの言葉に一瞬固まったあかねに首を傾げると、何だか少し顔を赤くさせたあかねはすたすたとあたしの前を歩き出した。
『あかねー?どーしたのって』
「なんでもないわよっ。それより、早く帰らないとその姿じゃ変態扱いされるわよ」
『え?…そうだ…!!』
あかねの言葉にふと、男になってしまっている事、そしてその姿のまま制服を着ている事を思い出せば顔を一気に青ざめさせた。(こ、こんな姿誰かに見られたら通報される…!)
「突っ立ってたら置いてくわよ」
『!待って!置いてかないで!一人だと余計怪しくなるから!』
「あははっほら、早く!(こんな姿なのになまえにドキッとしちゃった)」