方向音痴の響良牙
あたしが目にした人物、それは主要人物でも大好きに値する、響良牙。(そう言えばこんな登場だったっけ!)あたしの興奮は最高潮に高まっていた。だが此処で騒げば怪しまれる。そう思い、声を出さず乱馬と響良牙のやり取りを人だかりに紛れて見物していた。
「知り合い?」
二人の会話を聞いていたあかねが乱馬に尋ねると乱馬は暫く考え込みだした。だが、全く名前が出てこないらしく。
「ほらっあのっなあっ」
「…早く思い出してあげなさいよ」
中々思い出さない乱馬にあかねも響良牙に気を遣い始める。(ああ…あたしが教えてあげたい…!けどそんな事したら何で知ってるんだって絶対聞かれるし…)未だ考える乱馬にあたしは心の中で葛藤していた。
「一つだけ聞かせろ、乱馬」
その時、響良牙がゆっくりと口を開いた。
「何故、あの時勝負に来なかった!!」
「!あ〜っ!思い出した!!お前、前の学校で同級生だった響良牙だっ!久しぶりだなあ」
「質問に答えろ!」
響良牙の言葉でやっと思い出した乱馬に響良牙は話を戻す。
「俺、約束の場所で三日間待ってたんだよ」
「三日…」
「そう…四日目に俺がその場にたどり着いた時、貴様は既にいなかった」
「…俺からも一つ質問していいか?良牙」
すると乱馬も響良牙にゆっくりと口を開いた。
「何であんなに待たされにゃならなかったんだ?約束の場所はお前の家の近くの空地だっただろ」
「きさまあっ!!俺が四日間のうのうと散歩していたとでも思っとんのか!!着くまでにどれだけの苦渋をなめたか!!」
「…方向音痴かな?」
「方向音痴だ」
「うん、極度の方向音痴だ」
そう、響良牙は極度の方向音痴。まあ、そこが響良牙の魅力でもある…と思う。(約束したら一週間は覚悟で待っといた方が良さそう)
「男の約束を破って…父親と一緒に中国になんか逃げやがって!」
自分の方向音痴を棚にあげ、どちらかと言えば響良牙が約束を破ったというのに、響良牙は突然乱馬に持っていた傘を振り回した。
「よーするに決着つけに来たってわけか」
「決着!?生ぬるい!っ復讐だあ!!」
ぎゅーんっ!
良牙は傘を開くや否や、勢いよく乱馬へ投げやった。乱馬がそれを避けると投げられた傘はブーメランのように戻り、側にいた生徒達の服を切り刻む。そしてその傘は響良牙によって止められる。
「俺はどんな手を使ってでも貴様の幸せをぶち壊す!」
そして、乱馬に向かって言葉を吐き捨てた。
「!俺の幸せ…?俺って幸せだったのか…?」
「あたしが知る訳ないでしょ」