とりあえず頭を洗わせて下さい
「何するか!!」
『え?…あれ?』
怒った顔で怒鳴るシャンプーにハッと我に返れば、肘の下にいる男の子へと視線を移す。
『…?あなた誰ですか?』
「あのな…!」
あたしは一体どうしたんだろうか。(今、目の前にいる男の子とシャンプーが抱き合うのを見たらついカッとして…)
「これはもしかしてっ…」
「条件反射だわ」
「心の奥底で乱馬くんを覚えているのねえ」
「(何だかんだ乱馬を好きな気持ちは覚えてるのね…!)」
「…(私の技、かかりきらなかた。恐るべき女ね…)」
あたしを他所に話しているあかね達の言葉にシャンプーが顔を歪ませている事にあたしは気付かずにいれば。
バッ!
「ならばも一度、洗髪香膏指圧拳ね!!」
『!』
すると、またも背後に飛びかかってきたシャンプーにあたしは避け切る事が出来ず、思わずたじろいでしまった。(何かよくわからないけどしまった…!)
がしっ!
「よっしゃ!」
「!しまた!愛人!」
「この漢方液さえ手に入れればっ!いくぞなまえ!」
『!ちょっと…!』
すると、間一髪のところで男の子はシャンプーの腕を掴むと、その手に持っていた漢方液を奪い取り、あたしを連れて洗面所へと向かった。
がっ!ぶしゅっ!
ぐゎしぐゎしぐゎしっ!!
『!いっ痛い痛い痛い!!』
洗面所へ着くや否や、男の子は洗面台にあたしの顔を突っ込むと手に持った漢方液をぶっ掛けて突然乱暴に擦り始めた。(はっ禿げる禿げる!!!)
『っ初対面で何すんのよ!!』
めりっ!
そんな猛烈な痛みに耐えきれず、あたしは全身全霊の力で顔を上げると勢いよく男の子の顔面を洗面台にめり込ませた。(禿げてない…!?)
「きっ効いてねーじゃねーか!」
『何が!!』
「その漢方液ではダメだよ、乱馬くん!」
痛みに構わず漢方液を恨めしそうに見遣る男の子を恨めしそうに見遣っていれば、洗面所にやってきた東風先生がそう告げた。
「容器に書いてあるブレンドナンバーを見てみたまえ」
「110…」
「…失った記憶を取り戻すには、ブレンドナンバー119の漢方液が必要なのだ」
「!っどこにあるんだそれはっ!」
「安心したまえ。調合方はこの書物に…」
「東風先生!それでなまえちゃんを治せるんですね!」
「!かすみさん!!」
その時、遅れてやってきたかすみさんが話を聞きながらぱあっと明るい表情で現れると、突如先生の目の色が豹変した。(嫌な予感)
「やっ、やあ。どうしてあなたがここに…!」
もじもじ。
びりびりびり。
「はあ、自分の家ですから…ところでその本…」
「わーっ!!何を破いてんだ、何をーっ!!」
案の定、かすみさんを見た東風先生は豹変し、手に持っていた書物をびりびりに破きながらかすみさんとはなしはじめてしまい、乱馬は血の気を引かせて喚き散らした。
『…何でもいいからとりあえず頭を洗わせて下さい』
未だ状況についていけていなかったあたしは泡まみれになったずぶ濡れの頭を洗いたいと切に願った。