じゃじゃ馬にさせないで! | ナノ


死の接吻から愛の接吻へ





しーーーーん。



暫くの間、時間が止まったかの様に、あたし達は乱馬とシャンプーを囲む様にして立ち尽くし、二人の様子を呆然と見ていた。女の乱馬の時に受けた死の接吻から、男の乱馬に変わり愛の接吻を交わしている様子にあたしは何故だか苛立ちを覚えていたが、気のせいだと結論づけると暫し様子を見守っていた。すると、あかねがわなわなと肩を震わせ始めた。(やっぱり、乱馬の事が気になって許せないんだろうな)

「っ」
『!ふぇっ、なに…?』

そんな事を思っていれば、不意にあかねがあたしへと振り返った。突然の事に動揺してしまい、あたしは素っ頓狂な声を漏らし首を傾げる。

「(なまえって乱馬が好きなんじゃ…少なからず気にしてる筈なんだから、こんなの見て許せる訳……まさか、自分の気持ちに気付いてない?)…あーっもう!」
『?(変なあかね…)』

あかねは暫し考え事をしていたかと思えば、突如叫ぶ様に声を漏らすと、床に転がっていたシャンプーの武器の先端を手に取り、勢いよく乱馬へとぶん投げた。(ていうかアレ、絶対気絶するどころの痛みじゃないよね)

「「……」」

頭に衝撃的な痛みが襲い倒れ込んだ乱馬を他所に、シャンプーとあかねは威勢良く向かい合うと目には見えないが、壮絶な火花を散らし睨み合っていた。(小太刀の時といい、また壮絶な女同士の闘いが始まるのね…。お願いだから、今回こそは巻き込まれませんように…)まさかあかねが、あたしの気持ちを勝手に解釈してシャンプーに立ち向かっているとは露とも知らず、他人事のように切実な願いを胸に抱くと未だ睨み合っていた二人の側で身体を小刻みに揺らし倒れている乱馬にそっと合掌した。



ドスドスドスドス…


「なにごとだっ騒々しい!」



すると、騒ぎを聞きつけた早雲さんが早足で広間へとやってきた。

「おとうさん、それがね…私にはよくわからないんだけど…」

すると、かすみさんが眉尻を下げオロオロとした様子で早雲さんへ事情を話し始めた。

「乱馬くんの恋人の中国娘が復縁を迫って押しかけて来たみたいなの」
「恋人〜〜!?」
「オロオロしながらテキトーな事言わんでくれっ!」
『(…かすみさんて、原作を読んでいた時から思っていたけど天然が故に偶に恐ろしい事言うよね…)』

思わぬ言葉にあたしが若干顔を痙攣らせれば、同様に倒れ込んでいた乱馬もガバッと勢いよく身体を起こすと意義を申し立てた。

「ほお〜?案外当たってんじゃないのか?」

すると乱馬の背後に立ちはだかった良牙くんが頭にめり込んでいた武器を手に取ると乱馬の頭を軽く叩いた。

「男の姿で会ったのが今日が初めてだっ。なまえも知ってるだろっ?」
『…さあ〜?もしかしたら、あたしの知らない所で会ってたかもしれないし…』
「!オッオイ、おめーなぁ…!」

不意に乱馬に話を振られたあたしは、何だか無性に乱馬をからかいたくなり、目線を乱馬から外し明後日の方向へ向けとぼけると、乱馬が恨めしそうな声であたしを睨んでいた。

「それにしては随分親密じゃない?その"シャンプーちゃん"と」
「っあかね!!お前もなあっ!!」
「なによ!」

そんな中、あかねが嫌味ったらしい口調でそう言えば、単純な程に乱馬が突っ掛かり勢いよくあかねへと向かい合い、互いに睨み合っていた。

「「……」」

だが、暫く無言で睨み合っていたかと思えば、乱馬がくるりと身を翻し言い争いから離脱した。

「けっ、勝手にしろ。皆が俺をそーゆー風に見てるんだったら……」
『…あの、乱馬くん?』
「そーゆー風にしか見えん」

乱馬の言葉を放つ合間にも、シャンプーが乱馬の身体へと近寄り両手を広げて抱き着くとスリスリと乱馬とイチャつき始めた。(原作は見てるし、不可抗力だって知ってるんだけども、間近で乱馬が抵抗しないでされるがままなのを見ると何か、イライラしてくる…)


「…この際だから、丁度いいわ。あたしと乱馬の許嫁の件、無かった事にしてもらいます!」
『!あっあかね…!?』
「っなまえ!行きましょ!」
『えっ!?あ、ちょっ…』

すると、あかねもあたし同様にイライラが募り、遂に怒りが沸点に達したのか勢いよく驚きの言葉を発したかと思えば(こ、こんな早々に許嫁破棄してたっけ…!?)あたしの腕を掴むと、ドスドスと重音を立てて道場の方へと向かった。(な、何であたしまで…?)(って、この台詞この世界に来て何回目だろ…)





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