追求したら終わり
「それではるばる日本まで…凄いわねーPちゃん」
あたしから大体の話を聞くとあかねは、感嘆の声を漏らしながら良牙くんへと話しかけた。それからすぐにフェンスの上を歩く乱馬へ視線を移すとくすりと小さく笑った。
「ま、相手が可愛い女の子で良かったじゃない。ね、なまえ」
『確かに』
「ふん。くだらねー慰め方すんなっ」
あかねの言葉に、これがシャンプーじゃなくもっとガタイの良い女に地獄の果てまで追いかけられていたならと考えると、多分乱馬も必死の形相だったに違いないと思えば少し笑ってしまった。
「ただいまあ」
漸く天道家へと帰り着いたあたし達が家に入ると、何だか居間から聞き慣れないが覚えのある声が聞こえてきた。
「!まさかこの声…」
するとあかねと乱馬もハッと聞こえてくる声に目を見張ると急いで居間へと向かう。
「あら、おかえりなさい皆」
居間へとやってくれば、そこには炬燵でお茶を飲むかすみさんが優しい笑顔を浮かべて佇んでおりーー
「乱馬くん、お客様が来てるわよ」
「!しゃ、シャンプー…」
何故かシャンプーまでもが炬燵でぬくぬくとお茶を飲んでいた。そう言えば、家に押しかけていた気がする。
「何でここに…!」
「おじさまが連れてらしたの」
「っなに考えてんだくそおやじ!!」
【ついてきちゃったんだい】
かすみさんにそう言われれば乱馬は勢いよくパンダになっている玄馬さんに詰め寄るも玄馬さんは明後日の方向を見遣り言い訳の様な言葉を掲げあげていた。
「…乱馬?」
その時、ふとかすみさんの言葉を耳に入れたシャンプーがじろり、と今は男である乱馬に視線を向けた。乱馬はそんなシャンプーにびくり、と小さく肩を跳ねさせ身構えた。
「…ニーハオ」
「に…ニーハオ」
ジーッと見つめながらシャンプーが乱馬に顔を近付ければ、とりあえず挨拶を繰り出した二人に思わず力が抜ける。(れ、礼儀正しいな…)するとシャンプーが乱馬へすっと手を伸ばしたかと思えば、ぺたぺたと胸板を触りだした。
「男」
「おおおお女でなくて残念だったなあー」
引き攣った笑みを浮かべながら、乱馬はバレません様に…と内心ヒヤヒヤしているだろう。
「ほう、男の乱馬とは初対面な訳か」
「あら、良牙くん」
その時、いつの間に風呂を借りたのか、先程まで子ブタだった良牙くんはお湯を被り元の姿に戻ってあたし達の元へと現れた。(てか、あかねはPちゃんを可愛がってるのに、どうしていつもいつの間にかいなくなっている事に気付かないんだろうか…いや、それを追求したらこの漫画が終わってしまう)
「っ良牙…てめー」
そんな良牙くんに余計な事を言い出してしまいそうだと、乱馬がキッと睨むや否や、目を伏せ鼻で笑い再び良牙くんを見遣った。
「やけに事情に詳しいじゃないか?Pちゃん?」
「!ほ〜〜!!俺にそんな口きいていいのかな?」
案の定互いに売り言葉に買い言葉を発すれば、良牙くんは何処からともなくバケツ一杯に入った水を乱馬に向かって構えた。それを見た乱馬はギョッと目を丸くさせると血相を変えゆっくりと後ずさる。
「こっこら!なんだ、それは!」
「わざわざ中国から来てくれたんだ、なってやれ女に!」
『りょ、良牙くん。間違ってもあたしには掛けないでね…』
意地悪な笑みを浮かべて乱馬へジリジリと滲みよる良牙くんにあたしまでもが固唾を飲み被害を被らない様にと苦笑を浮かべた。(漸くさっき女に戻れたばっかりなんだからまた男になるなんて冗談じゃない…)そんなあたしに良牙くんは先程とは打って変わり爽やかな笑みを浮かべあたしへと視線を向けた。
「なまえさんには絶対掛けませんから!」
『それなら良いんだけど…』
「こら!なまえだけ逃げようとすんじゃねー!」
「それから、あの、出来れば後でお話が…!」
ビュッ!
「っ!」
「たわっ!!」
「『!』」
怒る乱馬を他所に良牙くんが言葉を続けようとした瞬間、突然乱馬と良牙くんの間を割る様に何かが突き入れられた。二人の間の奥にいたあたしとあかねは、二人が間一髪で避けた事により真正面から襲い掛かってきた物体を何とか両手で受け止めた。
「乱馬、出せ」
「っ知らないわよ!」
「…お前は」
『あ、あたしだって』
その物体は、シャンプーが中国より共に持ち運んできた武器で、実際に触れると想像していたよりも先端の大きな球は硬くずっしりとした重量感があり、それを受け止めたあたしとあかねの手はじん、と痺れる様な感覚に襲われた。(こ、こんなの振り回してるなんて、シャンプーって思った以上に馬鹿力…)痺れに顔を歪ませながらも、シャンプーの問い掛けに二人して同様に答えれば、シャンプーは疑いの目であたし達を交互に見遣った。(あかねはさっき、学園で女の乱馬と一緒にいたから疑われるのも分かるけど、あたしは中国にいた時もさっきも男でしか会った事ないし、初対面なんだから疑われる理由無いよね…?)そんな事を思いながらも、ゆっくりと口を開いたシャンプーに、あたしは全身に嫌な予感が伝った。
「乱馬隠す、お前たちも…殺す!!」
ドビュッ!!
バリバリッ!!
「っひい!」
『なっ何であたしまで…!!』
案の定、勢いよく武器を振り被ったシャンプーにあたしとあかねはどうにかこうにか避け、代わりに障子が悲惨な事になった光景に血の気を引かせながらも、悲痛な叫びを漏らした。