じゃじゃ馬にさせないで! | ナノ


女傑族の珊璞





――今を去る事、数ヶ月前の中国にて。

【腹へった〜〜!!】
【あたしも……】

ざっくざっくと足音を立て、変身したままのあたしと乱馬と玄馬さんは、この世界にやってきた際に初めに出会った片言を喋る男もとい、お兄さん(おじさん?…どっちでもいいか)に連れられ、道すがらをひたすら歩き続けていた。(ていうか、今冷静に考えれば、この世界に来て初めて出会ったらんまのキャラってあの片言のお兄さんだったんだよなあ…うーん、なんか複雑な気分)

【お客さん、ここは女傑族(ニュウチェズウ)の村】
【ニュウチェズウ〜?なんだ、それは】
【この村の娘、とても強いのよ】
【…(あ…確か、女傑族って)】

そんな考えの中説明していた片言のお兄さんの言葉に、まだこの世界にやってきて間もなかったあたしは、女傑族の村にいる強い娘と聞きすぐさまある人物が頭に思い浮かんだ。


ワーワーッ!
ドカッ バキッ

「ん?なんだ、この騒ぎは」

その時、少し遠くの方から聞こえる騒がしい声と殴り合う様な音にあたし達は視線を向ける。そんなあたし達に片言のお兄さんは答える様に言葉を発する。

【娘たちが腕比べしてるね】
【ふ〜ん…あっ食い物!】
【あ、二人ともそれ食べない方がいいんじゃ…(いやでも、食べないと今後の展開的に大きく変わっちゃうし原作に背いたらどうなるか……あたしは何も見てないしシラナイ…)】

片言のお兄さんが話の合間にも、何処かしら食べ物を見つけるや否や、乱馬と玄馬さんは飛びつく様にそれを食べ始めた。(今にして思えば、まだ記憶がはっきり残っていて助かったと思う今日この頃)そんな二人を傍目に、あたしは食べ物に手をつける事無く、女傑族の闘いを見物し始めた。


そこに、シャンプーがいた。


対戦相手のガタイが良いと言っても、シャンプーは比較的小柄であったが、凄惨な闘いぶりを見せ付け、一瞬の隙に対戦相手を盛大に吹き飛ばした。

【武闘大会で勝つ、これ大変な名誉】
【あの女、てーしたパワーだな】

シャクシャク…かふかふ、
がつがつ…がしゅがしゅ。

【……】

ふと、片言のお兄さんが隣から聞こえる咀嚼音の耳を疑い、顔を向けると、額につう、と汗を流したのが分かった。あたしはナニモシラナイ。

【お客さん…なに食べてるか】
【んー?】

もきゅもきゅ。
徐々に顔を青ざめさせる片言のお兄さん。それもその筈。乱馬と玄馬さんが食べていた物の前には『賞品』と大きく掲げられた立て札が置いてあり、目の前ではその賞品がかけられた闘いが繰り広げられている。だが、そんな片言のお兄さんの言葉に、返事をする合間にも乱馬達の食べる口は止まらない。次第に、どよどよとあたし達を囲う様にして女傑族が集まり始めるとあたしはやばい、と嫌な予感を覚えた。



ドカッ!!



【甚磨呀!!】
【『そこの女とパンダ、私の賞品を横取りするとは何事か!』と言ってる…!】
【賞品?】

突如降り注いだ凄まじい攻撃に間一髪で避けた乱馬が、振り下ろされた武器の上に着地すれば、攻撃を繰り出した本人であるシャンプーが中国語で乱馬へと怒声を浴びせた。だが、乱馬はピンときていない様で首を傾げ、玄馬さんに至っては未だに食べ続けていた。(…こんな人達とこれから旅するんだって思うと…当事者になった途端、滅茶苦茶不安だ…)

【それ、武闘大会の優勝賞品だったみたいよ】
【ああっ。なるほどな!】

背後からあたしがこっそりと乱馬へ耳打ちすれば、乱馬は漸く理解したのか手をポンと叩いた。

【『今日は年に一度の武闘大会。私は只今チャンピオンになった』と言ってる】
【ふん。俺が勝てば文句ねえだろ】
【(あ……いやいや、口挟んじゃマズいしなあ)】

ふと、今の一言により乱馬の今後の人生が大きく左右する事になるのを思い出せば、やめた方がいいのではと口を挟みそうになるが、再び先程と同様の事を考えれば、出かかった言葉は引っ込んだ。

そうしてる間にも、シャンプーも乱馬の言葉にやる気になれば、二人で会場として設けられた大きな丸太の上に立ち、まもなく試合は始まった。



ばきっ!



…かと思えば、乱馬の華麗に上げた蹴りがシャンプーの身体に綺麗に入ると、すぐさま決着がついてしまった。





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