じゃじゃ馬にさせないで! | ナノ


流石に誤魔化せない





「はっ!!」


みしみし、と音を立てあかねのしがみついていた氷が水へと沈んでいく。だが、どうにかあかねは氷を掴んでいた腕に力を込めて身体を浮き上がらせると、くるりと回転して氷の上へと着地した。(ほんとさ、この世界の住人運動神経良すぎない?)


ぐらっ…


「きゃ〜〜っ!」


ドボーンッ!


『!あかね!』

ホッとしたのも束の間、あかねの着地した氷までも、亀裂が入っていたのか不安定だった為に、再び氷はぐらぐらと揺れると沈み始めた。掴むものも無く、今度こそあかねはバランスを失うと、勢いよく水の中へと落ちてしまった。

「あ…!あかねさん!」
「ったく!だから引っ込んでろって…!」

盛大に跳ねた水により漸く事の状況を理解した乱馬と良牙くんはあたしと同様にあかねを見遣った。(まあ運動神経いいあかねならすぐに上がってこれるだろう…)


「んぐっむぐっ!」


『…え、あれ(そう言えばあかねって…)』
「ま…まさか……」
「泳げねえのか!!」

あたしと乱馬と良牙くんは暫しあかねの様子を見ていたが、水の中でばしゃばしゃと無造作に手を動かし必死にもがく姿を見てサッと血の気を引かせた。(何で運動神経いいのにカナヅチなの…!ぶ、不器用だからか!?)


バッ!


あたし達は一斉に水の中へと飛び込む。(…一斉に?)

「あかねさん!」
「『…ん?』」

水面に映った三つの影と、あかねを呼んだ必死の声に思わずあたしと乱馬は声を漏らした。(待て、待て待て…!)

「おい」
「なんだ!」
「いいのか?」
「なにがっ……!!」

水に浸かるまでもう少し。
乱馬に声を掛けられ、漸く自分の状況に気付いた良牙くんは瞬時に顔を青ざめさせ、じわりと涙を浮かべた。

「あ……!」



ドボーンッ!



忘れてた。

良牙くんは、自分の体質を忘れてまであかねを助けようとする勇敢さをここで発揮したのだが、あたしにとっては最悪の場面となってしまった。良牙くんと同様に水に飛び込んだあたしは、否が応でも、良牙くんが水に飛び込みPちゃんの姿に変身する様子を目の当たりにしてしまったのだ。(…あたしが男になったのを見られたのも、今の良牙くんの変身を目撃してしまったのも、流石に誤魔化せないよね…)あたしに見られたと涙目になりながらも、あかねがよっぽど大切なのだろう、必死に水中でもがきあかねを助けようとする良牙くんもとい、Pちゃんを見れば、そんなPちゃんにあたしはなんて健気なんだと思いつつも、心の中で溜息を吐き項垂れた。(あたしが密かに抱いていた【良牙くんがPちゃんだと知らないフリしてたまに抱きつこう作戦】は終了した…)そうしてる間にも、乱馬があかねを背負って救出すると、あたし達は水面へと一気に浮上した。


「『ぷはっ!』」
「ぶきっ!」

水面からあたしに続き、乱馬と良牙くんも顔を出すとリンクもとい、プールサイドへと向かう。

「ったく、変身する事忘れて無茶しやがって。やーい、なまえにバレてやんのー」
「ぶきーっぶき!(うるさい!なまえさん!これには深い訳がっ…!)」
『乱馬、良牙くんを虐めないでよ。それに、お互いにバレたんだし、良牙くんも気にしないで』
「ぶき…ぶきき…(それはそうですけど…俺がブタになるなんてなまえさんには…!)」
『でも、良牙くんの好きなあかねにはバレなくて良かったね』
「…ん?(こいつ、まさか勘違いしてやがる…?)」
「ぶき…!?(え、いや、お、俺が好きなのは…!)」


「あかねっ!」


そんなこんなと会話をしている間にも、プールサイドへと辿り着けば、あかねを心配そうに見遣るクラスメイトがいた。

『あっねえ、そこの毛布取って!』
「えっええ!」

あたし達はリンクもとい、プールから出ると先程まであたしが羽織っていた毛布をクラスメイトに取って来させると、素早くあかねの体に巻いた。

『とりあえず控え室に運びましょう!』
「わかったわっ」
「あの…ところで」

あかねの心配に頭がいき、テキパキと指示を出す中で、不意にクラスメイトの一人が恐る恐る声を掛けてきた。

「あなた達、あかねの知り合い?」
「!」
『!(そうだ、あたしは今男だし、乱馬は今女なんだった…!)』

クラスメイトの言葉でハッと我に返り、あたしと乱馬は今の状況に焦りながらも口を開いた。

「あーいや、えっとその、」
『そっそうなんだ!学校は違うんだけど、おっ俺もこの子もあかねとは小さい頃からよく遊んでて!』
「…へーっ。知らなかったわ」
「ね。あかねってば、何も言わないんだから」
『あははははは』
「…あれ、そう言えばさっきまでリンクで闘ってた男の子は?」
「それに、何でPちゃんがこんな所に…?さっきまで居なかった筈じゃ…」
「っ!あああ、えっとー!その…!」
『っと、とりあえず今はあかねを!』
「あっそうね!」
「あかね、しっかりしてっ」

続け様に核心をついてくるクラスメイトをどうにかこうにか上手く誤魔化して(はぐらかして)、とりあえずあたし達はあかねを抱えて控え室へとむかった。

それにしても。男になる度、今の様にいちいち上手く誤魔化していかなければならないのか、と思うと何だかどっと疲れが押し寄せる様な感覚に苛まれながらも歩みを進めれば、何故か佇んだままの良牙くんに気がつくと、あたしは踵を返した。

『(こそこそ)どうしたの?良牙くんもあかねが心配でしょ?ほら、行きましょう』
「ぶ、ぶい…(あかねさんも勿論心配だが…。それより、何故なまえさんは、誤解してるんだ…)」





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