控え室にて
【あーっと、これはー!?風林館高校ペア…ごっそり入れ替わりましたー!!一体どういう事でしょうか?】
リンクから出て間もなく、会場内は再び明かりが照らし始めた。(途中ちょっと危なかったけど、数秒だったし多分セーフ…!)本当に危なかったと、思い返せば深く安堵を漏らす。そして、ちら、と後ろを振り返れば、あたしと同様に水をかぶって女になってしまった乱馬に再び感謝の気持ちを込めると、毛布を深くかぶり直し、すぐさま控え室へと走り去った。
ガチャ。
「!なまえ?やだ、水被ったの?」
『!あかね』
控え室のドアを開ければ、いつからか目を覚ましベッドの上で上半身を起こしていたあかねが、あたしを見て目を丸くさせた。あたしの濡れた姿、否男の姿を見るや否やベッドから出ようと身体を動かしたが、あたしはそれを制す。
『あたしは大丈夫だから、あかねは寝てて』
「…そう」
大人しくベッドへ身体を戻したあかねを見遣れば、鞄から常備していた体操ジャージを取り出した。(流石にあかねの前で男の姿の着替え見られるのは恥ずかしいな…)そう思ったあたしは、照れ笑いをして「ごめん。ちょっとだけ向こうむいてて」とお願いすると、あかねも理解したのか少しだけ顔を赤らめてすぐさまそっぽを向いた。(本当、あかねのこういうところ可愛いなあ)そんなあかねに笑みが溢れると、急いで衣装を脱ぎ始めた。
「…もしかして、さっき聞こえてきたペアが入れ替わったのって」
『あー、うん。あたしと一緒に乱馬も水被っちゃって。で、女になった乱馬の相手がなんと良牙くん。それに今、乱馬の身体ボロボロで…立ってるのがやっとだと思うから心配なのよね』
「えっ!…あ、ごめんっ」
『もう大丈夫!ありがとう』
着替える最中での会話で思わず振り向いたあかねが再び、反対方向へと顔を逸らすが、大体着替えを終えたあたしは最後にじーっとジャージのジッパーを上へ上げるとニッコリと笑った。
「…あの二人で大丈夫なのかしら」
『ほんとにね。兎に角、お湯被って元に戻ったら、乱馬と選手交代するつもりだから、ちょっとお湯探してくるね』
…と、控え室を出てきたは良いものの。お湯を扱っているところと言えば、食堂だろうか。うろうろと学園の中を彷徨いてみたが、授業が終わり、生徒が教室を出払った今、大方の校舎に鍵が掛かっていて出入りが出来なくなっている。(そ、そんな…)生徒含め、教職員も今は恐らく乱馬たちの試合に夢中であろう。
『…仕方ない。とりあえず今は諦めて、試合会場にいる教職員の誰かにお願いするしか無さそうだな…乱馬、悪いけどもうちょっと我慢してね…』
はあ、とため息をついてお湯を諦めたあたしはトボトボと控え室へと舞い戻った。
ガチャ。
『あかねー、今殆どの校舎閉まっててお湯が無…』
再び控え室へとやってきたあたしがあかねへと話しかけながら中へ入ると、あかねがいるはずのベッドには、あかねの姿はなかった。
『あかねっ?あかねーっ』
あたしは見渡せる限りに広がる控え室の中で、思わずあかねを探す。だが、勿論あかねからの返事は無い。
『…まさか』
あたしの脳裏に嫌な予感が過ぎると、すぐさま控え室から飛び出た。